先日お邪魔した神楽坂『saime』というお店で、今年の食体験の中で間違いなく一番の食事をさせていただいた。
かなりプリミティブに「食」を突き詰めているお店で、食材は埼玉のある農家から仕入れた野菜のみ。それらを皮ごと土器で炊き(焼きと蒸しの間とのこと)、塩だけを付けて食べる。器もグラスも全て土器で、カトラリーの類は無し。焼き上がった野菜を、素手で齧り付く。調理法から提供方法まで、その全てがプリミティブな食体験を再現しているのだ。この日いただいたのは、冬瓜、紅芯大根、青唐辛子、にんじん、白インゲン豆、かぼちゃ、赤飯粥。それぞれの季節に手に入る野菜のみを使い、1〜2月には食材が無くなることもあるらしい。そもそもこの飽食の時代、どんな食材もいつでも手に入るという状況自体が既に異常なのだよな。
僕は最近、スープ作家の有賀薫さんの考えに影響を受け、野菜はなるべく旬のものを使うようにしている。旬の野菜は安く、その時期に必要な栄養をくれて、そして何より美味しい。部屋に飾る花もそうだ。ミモザや紫陽花、芍薬にコスモス。それぞれの季節を感じられる花を飾り、花に季節の移ろいを見る。ここでの食事はそういう、世界が当たり前に持っていた感覚のようなものを取り戻させてくれたように思う。
オーガニックが素晴らしいとか、原初の食生活に立ち返るべきだとか、そんなことが言いたいのではなくて。こういう根源的な常識だったものを忘れていくことは、世界の形を見失うことだと思うのだよな。僕は少なくともその手触りを手放したくはないし、仕事柄農業はとても身近なところにある。「料理は畑で完結している」と店主の方が仰っていた通り、全ての営みは土と水から生まれている。その力を借りて作られたお茶が、どうなれば美味しくなって、どうなれば正しくなるのか。少なくともお茶に従事する僕らはそれを考え続けなければならないし、今の世の中はこのトピックに対して実にセンシティブなはずだ。食事から考えるSDGs。いろんな入口があっていい。
さて、そんな僕の2週間分の日々のことです。
日々のこと、2021年11月26日
15日月曜日、仕事の大きいプレゼンが終わって一安心。これは個人で受けている仕事で発生したプレゼンで、本業の方のお茶の仕事では基本的にこちらから資料を使ってプレゼンみたいなことはほとんど無い。担当者にお茶を飲んでもらって、美味しければ良し、そうでなければ悪し。良くも悪くも美味しくなければ始まらない食は本当にシンプルで、誤魔化しが効かない。唸るくらい美味しいお茶を出し続けなければ僕らに未来はないのだ。
ネバヤンからGt.阿南氏脱退の知らせ。まっちゃんの時もそうだったけれども、 こういう時の安部勇磨の言葉はすごく良い。丁度よく肩の力が抜けていて、飾らず、正直な気持ちを紡いでいるように見える。
いつまでもオリジナルメンバーでやれるバンドがどれだけ少ないことか。ましてや若い彼らには無数に可能性があって、むしろ新しい挑戦があって当たり前だ。それでも、初期の初期から見てきたバンドのこの手の話には、やはり寂しさを覚えずにはいられないよな。安部勇磨も言っていた通り、自分の気持ちには正直でいるべきなのだから、この寂しさは抱えていてもいい。花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』でもそんな話があったよな。悲しみを悲しみのままで悲しみぬく。深い悲しみにどっぷり身を浸すその時間もまた大切な経験なのだ。
思い出したように安部勇磨『ファンタジア』を聴く。そうか、これ今年のアルバムだったか。今年は随分長く感じるな。
16日火曜日、ソニーの求人に「文化人類学など人文学系の視点をベースに、人と社会を研究するリサーチャー」という募集要項を見かけて、めちゃくちゃアガる。
人の本性・本質や、社会現象の背後にあるメカニズムを研究。成果を新事業や新体験の提案に結び付けます。人文学をベースに自然科学等、幅広い学術分野の視点から仮説を策定し、検証。(例:人にとってのSocialな行動の価値や意味あいは何か?)研究成果(論拠)をベースとした事業・体験の提案も業務に含まれます。
この募集文を読んだだけで僕の胸は熱くなる。ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』に衝撃を受けて以来、僕は文化人類学の虜だ。コンテンツ一つとっても歴史と文化の堆積の上に成り立っているのだし、企業の活動にもそういったベースがあって然るべきだとはずっと考えていた。人文学で大切なのは、現場の空気や人々の実感を収集するためのフィールドワークで、この営みがお金に変わるまでには結構な時間がかかるのだよな。そこに企業を挙げて投資することを決めたSONYの英断よ。願わくばこういった学術的なバックボーンを持つ若者が世に出て、世界の秘密を片っ端から詳らかにして欲しいものだ。
17日水曜日、マヂラブANN0で『ブラック★ロックシューター』がかかって驚く。なぜかこの頃、全く別の角度からを3度も聴く機会があって、リバイバルを疑ったがそんなことはなさそうだ。
結構びっくりするんですが、最近の若い子は初音ミクは知ってても『メルト』とか『恋スルVOC@LOID』とか『みくみくにしてあげる』とか知らないらしいですね。僕がニコニコ動画に張り付いていたあの頃は完全にボカロ黎明期で、初音ミクに歌わせた曲を人間が歌う「歌ってみた」動画が無数にネットに放流されていた。僕は歌い手カルチャーにはさほど興味が無くて、VOCALOID楽曲ばっかり追っていたなぁ。あとKOTOKO楽曲。『Leaf Ticket』とか本物の滝曲だ。KOTOKO楽曲は良曲揃いなのに、権利の問題か規制の問題か、エロゲ主題歌が軒並みサブスクに無いのが大変遺憾でならない。あとなんか最近Tiktokで『ガチャガチャきゅ〜と・ふぃぎゅ@メイト』流行ってるでしょ。あれは大丈夫なんですかね。
時にマヂラブANN0の選曲、めちゃくちゃ幅があって面白いですよね。アニソンやボカロ曲が流れるかと思えばeastern youthやスーパーカーがかかったり、今週も中村一義だったりと振れ幅が大きい。村上は長澤知之のファンを公言しているくらいだし、90年代邦楽勢は村上選曲だろうと睨んでいる。
18日木曜日、M-1の準決勝進出者が発表されている。僕の最推しマユリカ・金属バット・真空ジェシカがそれぞれ順調に駒を進めているようで安心だ。特に3回戦のマユリカは完全に爆発していたので、そのままの勢いで決勝に行って欲しい。気持ち悪いコンビ名の由来と異常なまでの仲の良さが全国民にバレてしまえば良い。落選組で悔しいのはGAG。彼らはそろそろ報われても良い。大宮から羽ばたく日を今か今かと待っている。
あとスカート・澤部氏の結婚発表、良かったですね。十三年もの交際期間を経ての結婚、なんて丸い(丸く収まっている的な意味で僕が使う言葉です)んだ。あまりにも嬉しいので大好きな歌詞を一節だけ引用させてください。
また風が強く吹いた
君とここにいないだなんて!
スカート『トワイライト』
19日金曜日、なんだか妙に仕事の調子が良い日だ。集中したい時にいくらでも集中できて、細かい雑務も大きいタスクもザックザクと処理してやった。最近はこういう日が少なくて困る。元々集中力は無い方なのだけれども、近頃は色んなことに気が散ってしまって、とにかく集中が浅い。『SKET DANCE』のボッスンよろしく、集中力のスイッチが分かりやすくあれば良いのだがなぁ。とりあえず習慣信者の僕はできる限りの習慣化を図ろうと思う。ポモドーロタイマーとかちゃんと使ってみるかな。
20日土曜日、毎年主催している忘年会。例年は「日本一早い忘年会」と銘打って、11月の1〜2週目に催してしまうのだけれども、今年は情勢が読めなかったので少し遅くなってしまった。あまり深酒をするつもりはなかったのだけれども、ばっちり会計あたりから記憶が無い。後になって思い返してみればワイン、日本酒、ビール、焼酎、ウォッカとちゃんぽんをし過ぎたのだろうな。ヘロヘロになりながらカラオケに向かい、しっかり朝まで過ごして帰った。久々の楽しい夜でした。来年はスナック『フジイ』がやりたいな。友人が撮ってくれた楽しそうな僕を供養しておきます。
21日日曜日、前日の忘年会の余波で完全に1日を棒に振る。
22日月曜日、知人の料理人が近所で1日だけパスタを出していたので立ち寄る。彼は参宮橋『Regalo』で働いている料理人の方で、お店に食べに行ったり、別の店でばったり出くわしたりとよくお会いする。この日は4種類のパスタとワインを20本くらい持ってきていて、大いに食べて飲ませていただいた。彼は陽気でユーモラスで、そして何よりご飯が美味しい。初めて彼の料理を食べたのは3年ほど前、僕がまだ25歳のこと。いずれ彼も独立するだろうし、その時は「僕は25の頃から彼の料理を食べている」とデカい顔をしたいものだ。
23日火曜日、冒頭で書いた『saime』というお店で食事。ここの料理からはすごくエネルギーをもらったように思う。時折食べるこういう食事、すごく大事だ。
24日水曜日、毎週言っている気がするが『カムカムエヴリバディ』は相当面白い。戦争が終わり、希望と絶望が入り混じる日々を懸命に生きる安子(上白石萌音)。少しずつ元の日常を取り戻そうとするその姿は今の世界とも被るよな。一度変わってしまった世界はきっともう元には戻らない。それはピースの足らないパズルのようなもので、できる限りの断片をかき集めたとて、完成するのは穴空きの絵だけだ。僕らにできるのは、その空白に新たに色を塗って、完成した新しい日常を過ごすことだけだ。僕はこのコロナ禍で世界の形が変わってしまうのが本当に嫌だったので、今週の朝ドラは妙に沁みてしまった。来週以降も重たい雰囲気が続きそうなので、この週末で覚悟を決めなければ。
25日木曜日、少し出遅れて『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』を観始める。
観よう観ようと思っていたら、いつの間にか見逃し配信を2週間分も見逃してしまったのでやむを得ず課金。こういう作品、めちゃくちゃ好きだ。現存する人物を演じる、ほぼ再現VTRと言っても過言ではないこのドラマ。温もり溢れる阿佐ヶ谷の街並みと、木村多江・安藤玉恵の名演が光る名作だ。特に渡辺江里子役の木村多江は怪演。
別の世界では 二人は兄弟だったのかもね
cero『Orphans』
なんの血縁関係もない二人の女性が、擬似姉妹として結成したこのコンビ。お笑いコンビというだけの枠を超え、六畳一間で始まった共同生活は、実際の姉妹のそれよりも余程それらしい。この二人ほど、cero『Orphans』を連想させる関係性もないよな。それもあってか、主題歌を手がけるのは高城昌平と王舟。高城昌平といえば阿佐ヶ谷『Roji』だし、この上ないキャスティングだ。阿佐ヶ谷姉妹の堪能な歌謡も合わさって、ものすごいクオリティの楽曲に仕上がっている。朝ドラで重たく沈んだ心を夜ドラでふわりと掬い上げる。今季はNHKにお世話になります。