近頃はレビューなどもめっきり書かなくなってしまったけれども、そうして見聞きしたカルチャーをただただ時間の中に泳がせておくのは勿体無いし、どうしたって僕らは忘れてしまう生き物なのでこうして言葉で残しておかねばならない。
Taylor Swift『folklore』
言わずと知れた世界的歌姫テイラーの新譜。Twitter随所で絶賛されているので聴いてみれば、なかなかどうして好きかもしれない。ここ最近の僕のモードは完全にフォーク・カントリーで、自然と耳に優しい音楽ばかりを選ぶようになっているのだが、このアルバムはかなりど真ん中。フォークを下地に、洗練されたモダンなポップスたち。歌詞までちゃんと見てないけれど相変わらず失恋ソングなのだろうか。普通に曲と音像が良いので、歌詞で要らん印象を植え付けたくなくてちゃんと聴かないようにしている。
石指拓郎『緑町』
2ヶ月くらい前にこの石指拓郎という男を知ってから、聴くものに悩んだらスッと手が伸びるのはいつもこのアルバムである。アコギ1本、時々ハーモニカというシンプルなフォークスタイルと人間臭い世界観。生活の中でふと口をついて出た想いや言葉がそのまま歌になってるような距離感の近さがすごく好きで、最近はずっと聴いている。こういう日常に根付いた耳あたりの良い音楽を聴きたくなるのも、ご時世だなぁと思う。
RYUTist『ファルセット』
リリースがある度に話題になっているのは知っていたけれども、何故だか手が伸びていなかったRYUTist。蓮沼執太フィル、Kan Sano、柴田聡子、パソコン音楽クラブといった豪華な制作陣を迎えてリリースした4枚目のアルバム『ファルセット』は、季節的には春じゃない?と思いつつ良曲揃いの良盤だ。サビが全部良くて、全曲ホームランが打てるスラッガーアルバムだと思っているのだが、特に柴田聡子作『ナイスポーズ』、Kan Sano作『時間だよ』は聴いていていつも耳が止まる名曲。ただまあ一つ苦言を呈するのであれば、制作陣の幅の広さがそのままアルバムに落ちてきているので、聴いていて振れ幅が大きいんだよな。もう少しタイトにまとまっているとすごく良いなと思いつつ、多分もう5〜6周はしている。
OKADA TAKURO+duenn『都市計画(Urban Planning)』
最近は仕事を始める前に10分くらい瞑想をするようにしていて、その時は必ずアンビエントかエレクトロを聴くようにしているのだけど、最近はもっぱらこのアルバムだ。「都市計画」と銘打たれたこのアルバムは、なるほど確かにどこか架空の近未来都市の手触りを感じさせる。正直こういう音楽ってあんまり理解できないのだけれども、毎日1回は聴いているものだから次第に彼らが何がしたいのかがわかってきた。音数を限りなく絞り、その重なりや配置のみで描かれる世界。すごく想像力が要る作業だとは思うんだけど、
「架空の街“Awesome City”のサウンドトラック」
という、Awesome City Clubが掲げるテーマが僕の理解を深めてくれたような気がしている。
in the blue shirt『In My Own Way E.P.』
アンビエントやエレクトロとは完全に別の方向で言語からの離脱を試みるin the blue shirtの新作EP。in the blue shirtの音楽は昔からすごく好きで、なんでかめちゃくちゃ聴きやすいんだよな。昔アリムラがどこかで言っていた「何か言ってるはずなのに何も言ってないのがヤバい」みたいな感覚が理解できた瞬間から大好きな音楽の一つになった。ボーカルを切り貼りして象られる”歌メロ”のような何か。それは確かに人の言葉であったはずなのに、それが分解され再構築されて音楽となった時、そのあり方はむしろ楽器に近いのに温度を伴っていて、それがなんかすごくヤバい。
サラ・クロッサン『わたしの全てのわたしたち』
ヒコさんがnoteで絶賛していたので購入したこの小説、めちゃくちゃヤバい。思わず1年くらいぶりにレビューを書いてしまった。とにかく感情を揺さぶられるのでそういう没入感が欲しい人は是非。
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西加奈子『白いしるし』
『わたしの全てのわたしたち』を読み終えた時、「もう少しこの感情ガクブル状態でいたい」と思って手にとった西加奈子の超絶恋愛小説。読み返すのは3度目とかなのだけれども、ここで描かれる恋愛はあまりにも強くて深いのでそういう気分の時に思わず読んじゃうんだよな。感情の手綱を主人公に預けて、彼女の感情を追体験するような読み方は普段しないのだけれども、そんなに悪くない。
宇野常寛『遅いインターネット』
友人に薦められて読んだ『遅いインターネット』は、ここ1年くらいの僕の思考を拾い集めつつ繋ぎ合わせてくれた。既に半ば敗北しかけた民主主義を守るためには、民主主義を半分捨てる必要があるという前提には同意しかないし、その上で筆者が選んだアプローチは僕がブログを通じて体現したかった未来を指向していて、点在しているように見えた僕の思考はこうやって繋がるものかと思わず膝を打ったな。元々文化批評のフィールドにいた人だからか、「コンテンツから読み解く社会の形」みたいな話がすごく納得できてよかった。
和山やま『女の園の星』
去年の僕のベスト漫画『夢中さ、君に。』の作者初の連載作である『女の園の星』は、流石と言う他ない大傑作だ。和山やまが描く世界では、人間の良い部分も悪い部分も全てが人間味として描かれていて、この世界ではあらゆる登場人物が愛おしい。腹を抱えて笑うと言うよりも、ずっとクスクス笑っているタイプのギャグ漫画で、とにかく楽しく読めた。どこかで『夢中さ、君に。』のレビューは書きたいと思っているので、少々お待ちいただきたい。