板橋の星ことPUNPEEの全国民待望の1stアルバム『Modern Times』であるが、疑う余地無く大傑作である。
この大傑作のレビューをしたためるにあたり、大変身の引き締まる思いで筆を執っているわけだが、始めにこの記事を紹介しておきたい。
僕のポップカルチャーへの傾倒に大きく影響を及ぼしたポップカルチャー界の重鎮・ヒコさんのレビュー記事である。この記事の完成度と言ったらこの上なく、洞察の深さ、文章の巧みさ、PUNPEEへの愛、どれを取っても完璧なレビュー記事なのだ。
先日、小沢健二とSEKAI NO OWARI『フクロウの声が聞こえる』がリリースされた時も、一音楽ブロガーとしてレビューを書かねばなるまいと考えていたものの、ヒコさんのレビュー記事のあまりの完成度に打ちひしがれ、結局記事を書くことままならなかったのだ。
だがいつまで経っても後塵を拝している訳にもいくまい。偉大すぎる先人のそれと比べたら実に陳腐ではあるが僕の渾身のレビューを読んでくれ。
PUNPEE『Modern Times』
アルバムのオープナーは『2057』と題され、その名の通り舞台は2057年。40年前に発売されたこの『Modern Times』というアルバムや彼自身のキャリアを40年後のPUNPEEが語るというストーリー
あの頃はとにかく、自分の聞きたいものが、ただ作りたかったんだ
そう語る彼は過去に思いを馳せながらも、その言葉は40年後の未来が穏やかな未来であることを物語っている。僕らは未来に期待をしてもいいらしい。
そして迎える1曲目の『Lovely Man』である
まあご存知の通り中身も外見もまあ覇気がない
端でも棒でも引っかからずに
男だか女か それもわからない あ、Pです
やら
別に俺なんかいなくてもね
KOHH君、tofubeats、弟とかがいる
だの
ほんと最近暇だな
アルバムでも作ってみようかな
とまあ相変わらずのPUNPEE節である。覇気のかけらも感じさせないユルいラップ、それが彼の持ち味であり、他のラッパーとは一線を画す存在であるPUNPEEたる所以なのである。そのスタンスは16曲入りのフルレンスであっても変わらないらしい。
そうは言いつつも続く『Happy Meal』『宇宙に行く』『Renaissance』『Scenario』と、極上にポップでありつつも振れ幅広く様々な音楽性を内包するヒップホップ音楽としてのカッコ良さをエゲツない水準でオーディエンスに叩きつける。
のらりくらりと言葉を操るPUNPEEだが、ハッとするようなパンチラインは随所に散りばめられていて、
クラブで最初に聞いた自分のビートのショボさ悔しさは今も忘れない
あと尊敬する人に自分のビートを賞賛された日も忘れる訳がない
-『Renaissance』
は背筋がスッと伸びるような名リリックだし、
先に名乗られなくてよかった
密かにこの名前気に入ってるのさ
-『P.U.N.P(Communication)』
自身のMC名を「気に入ってる」と宣うその姿に僕は胸打たれてしまう。ユルさの中に見え隠れするラッパーとしての本音。そこに痺れる憧れるのである。この手口はもはやツンデレである。
さて、言うまでもなく『PUNPEE』=パンピー(一般人)の意であり、彼のスタイルはその名の通り、どんなに有名になっても(それこそあのヒッキーと共演したとしても)自身を一般人だと自称し続ける。
特に『P.U.N.P(Communication)』のリリックは象徴的だ。
いつも俺に当たってた先輩も実家帰り継ぐ家業
そのパイセンの大事なパンチライン 勿体無いパクっちゃお
PUNPEEがパンピーであるというのなら、先輩のパンチラインをパクったPUNPEEの様に、PUNPEEのパンチラインを引き継ぐ誰かがPUNPEEのいる場所を取って代わるのだろう。
君は俺で 俺は君なんだ
ほらわかったら捨てるんだ こんなCD
このリリックがこのアルバムでPUNPEEが最も伝えたかったラインであるというヒコさんの発言に完璧に乗っからせていただくが、確かにこのアルバムのテーマはこのフレーズに象徴されている。
俺はパンピーでパンピーは君、歴史は過去から未来へ、人からまた人へと渡り歩いていく。
あのストリートの顔役も 朝のニュースの顔になり
今をときめくあのラッパー そいつの親父もこんなシャバ憎だった
-『2057』
そして終盤にかけてアルバムはよりエモーショナルな『タイムマシーンにのって』『Oldies』へと収束して行く。
巷で今流行っているあの曲も すぐさまOldies
君の子は言うだろう 「誰これ? ダセェよ知らない」
若い世代が新しいもんを作り
おいたものは見守るの繰り返しだよ
誰かが作れなかったものを次の若者が完成させる
ここでもPUNPEEの言葉は語っているではないか。
現代をこれでもかと言うほどときめきながら過ごす、いわば時代のスターとでも呼ぶべき大天才PUNPEEであっても、俺は君で君は俺。いずれ自分に取って代わる新たなスターが現れることを知っている。それは未来の俺(PUNPEE)かもしれないしこのアルバムを聞く君(僕らオーディエンス)かもしれない。
サウンドは革新的にカッコよく、極上のポップス。その実このアルバムはなかなかどうして、とびっきりの応援歌ではないか。
PUNPEE兄さんに一言。
2017年を象徴する様な大傑作の登場に僕の心は踊りっぱなしである。
40年後もこのアルバムは聞かれ続けるんじゃないだろうか。