キューバ出身ってだけで垂涎モノなのだが、何はともあれこのライブ映像を見て欲しい。
『Ibeyi』の音楽性
そもそも『Ibeyi』の音楽のジャンルを考える時、この音楽を定義するに相応しいジャンルなど存在しない。
ソウル、R&B、ヒップホップ等の黒人文化と、彼女らのルーツであるヨルバ文化(アフリカの民族)を高度にミックスした音楽は唯一無二。強いていうなら実験音楽というのが近い気もするが、決して機械的ではなく、大きな蛇にも似た息遣いを感じる音楽は実験音楽と定義するには生々しすぎる。
深淵な暗い穴、大きく深くうねる大河、鬱蒼とした密林。そんな景色がIbeyiの楽曲からは連想される。
二人のみで作り上げる世界観
サンプラー、キーボード、カホン、パーカッション。Ibeyiが実際に演奏するのはこれらの楽器のみだ。必然音数はかなり少なく、シンプルな構成なのに、その世界観は目を見張るものがある。
英語とヨルバ語を使って歌われる彼女らの楽曲。特にヨルバ語の耳慣れない独特の響き、その深淵な空気感と民族感。どこか神聖な儀式みたいなものを連想させる。
面白いのは、本来アナログであるべきな民族的な音楽に、サンプラーやキーボードといったデジタル楽器を完璧に使いこなし、本来混ざり合うことのない2つのサウンドを完璧な形で楽曲に落とし込んでいる点だ。
そうして出来上がるIbeyiの音楽は、誰も聞いたことのない、未開の音楽として響くのである。
歌声
歌声も楽器として捉える彼女たちは、声を様々な形で楽曲に取り入れる。歌声をループで幾重にも重ねて、1つの楽器として使ったり、サンプラーであらかじめ録音した他人の声も当然得意とする楽器の1つだ。コーラスラインの作り方もかなり独特で、どちらかがベースを担当するように低音を重ねる時もあれば、どちらが主旋律なのか分からないような複雑に絡み合うハーモニーで歌うこともある。当然ながらその全てが美しく洗練されたサウンドなのである。
2人の歌声の差も重要なファクターだ。
キーボードを担当するリサ=カインデの歌声は美しく伸びやかな女性的な歌声なのに対し、カホンのナオミの歌声は少し掠れた哀愁のある歌声。主旋律を歌うのは楽曲によって変わるし、その度に曲の雰囲気も大きく変わる。
そして何より、2人の歌声が重なった時の美しさたるや。単純な旋律の美しさを超えた超然とした凄み、2つの歌声が1つの楽器として存在できる相性の良さといい、流石は双子といったところだ。
ルーツと意識
そもそも『Ibeyi』とはヨルバ語で「双子」を意味する言葉であり、その名を冠する彼女らのルーツや家族、血統に対する帰属意識は強い。
パーカッショニストの父親と歌手の母親の間に生まれた彼女たち姉妹は、父親の遺したカホンの演奏を学び、祖先であるヨルバの文化を学び、自身のルーツを表現する手法として当然のように音楽を選んだ。
MCではフランス語を話す彼女ら。母親がフランス人であることもあり、第一言語はフランス語なのだろうが、フランス語で歌われることはない。自身の音楽を発信する媒体として彼女らが選んだのはヨルバ語と英語であり、ヨルバ文化の体現者としてアメリカの大衆音楽を利用しようという意識が見て取れる。
ヨルバ音楽とヒップホップ、R&Bを高次元で融合させたIbeyiの音楽。その独創性と美しさたるや、他の追随を全く許さない至高の音楽といっても過言ではないのだ。
Ibeyiに一言
2年前の来日公演、誘われていたのに別の用事があって行けなかったことを今でも後悔してます。今年はCoachellaにも出てることだし、フジロックで来てくれたら最高だなって思ってます。