日々のこと、2021年11月14日

日々のこと

近頃考えているのはフォークのことだ。カトラリーじゃない。ネットで辞書を引くと「民俗。民間。民衆。」とある。音楽の1ジャンルとしてのフォークならイメージもしやすかろうが、一般的な言葉としてのフォークの概念は実に説明しにくい。「民藝」が「folk art」と訳されるのを知ればその輪郭くらいは掴めるのではないだろうか。僕の解釈を無理くり平易な言葉に落とし込むなら「日常の機微」とか「暮らしの中の燦めき」となる。

僕にとってのフォークは民藝だし、家主だし、A子さんの恋人だし、団地だし、とんかつだし、UNIQLOの靴下だ。ストリートの先に種々のナイトカルチャーがあるように、その別の派生先にはフォークがあるように思えてならない。むしろストリートを選ばなかった人々の居場所としてのフォークに、今僕は一番魅力を感じている。この話、理解してくれる人は本当に少ないと思うのだけれども、日本人が豊かに暮らすための答えはフォークにあると、僕は結構マジで考えているのだ。フォークで何かができれば良いなぁ。

そんなフォークフリークの一週間分の日々のこと、どうぞ。

日々のこと、2021年11月14日

6日土曜日、うすやま氏主催のイベント『MUSIC IS ENOUGH』に初参加。スカート澤部氏が10代の頃に通い詰め、3人の心の師の内の1人としても挙げられるうすやま氏。4000円と高めに設定されたチャージが、20代に限り無料だと聞き、会場が下北沢mona recordsだったこともあり、厚かましくもありがたく参加させていただいた。

このイベント、0時に始まり朝まで3人のDJがひたすら自分の好きな音楽をかけまくるイベントで、参加者は皆椅子に座り、ただただ音楽に耳を傾けるという完全な奇祭であった。会話をするグループもあれば、僕のように一人で携帯を触りながら音楽を聴くだけの者もあり、酒はほとんど飲まれず、踊る者なんているはずもない。目的は誰もが「音楽を聴くこと」であり、もっと言えば主催者3人が「音楽を聴かせること」だったように思う。それを参加者も皆心得ていて、絶妙な距離感で成立したとても居心地の良い空間だった。かかる音楽も五島良子・奥菜恵・岡村孝子といった90年代J-POPが続いたかと思いきや、Enyaからのマイブラという音圧落差を味わう瞬間があったり、名前も聞いたことのない70年代のジャズが流れたりと、奇祭と呼ぶに相応しい幅広いラインナップで、Shazamをする手が止まらなかった。

思えば昔は積極的に音楽と出会う場に恵まれていたよな。それは大学時代のサークルの部室であったり、先輩に誘われて行くCotton Clubであったり、友人とどこかへと向かう車内であったり。人と人とのコミュニケーションの中にはこういった偶発的な出会いが溢れていた。大学を出て、コロナに見舞われて、不意の角度から得られる情報が壊滅的に減ってしまった今、僕が一番求めているのは会話と場なのだ。少し前に似た内容のnoteを書いていたので興味があれば是非。

僕らには今、「コミュニティ」が必要だと思う|フジイコウタ

7日日曜日、1ヶ月ぶりに近所のイタリアンへ。1ヶ月も日が空くことがなかったので、お店の人にも「東京いないのかと思ったよ」と言われてしまう始末。去年の領収書を整理していたら、外食の半分以上がそのお店だったのには驚いたよな。ここの伝説は「30回くらいパスタを頼んでいるのに、1回も同じパスタを食べたことがない」ことで、この日もパスタを頼んだら「坦々麺食べてよ」と試作中の坦々麺が出てきた。魚介出汁の坦々麺で、もはや麺もパスタではなく中華麺。イタリアンに飽きた彼が作る中華や和食がめちゃくちゃ好きなのだよな。食べたい人がいればご一報ください。混むのが嫌なので絶対店の名前は出しません。

8日月曜日、客先訪問のついでに神保町『さぼうる』で一服。店内でかかっているのがネバヤンだったので気分が良い。惜しくも『あまり行かない喫茶店』は聴けなかったけれども、あまり出来すぎていると疑いたくなるタイプの天邪鬼なので丁度よかった。喫茶店のコーヒーって大体深煎りなのはあれ何故なんでしょう。喫茶店で飲むコーヒーを美味しいと感じることがほとんど無い。不味いのもスタバのドリップコーヒーくらいで、スタンド以外で飲むコーヒーに求めているのは熱さと器の美しさくらいなのかもしれない。神保町には先日もいたけれども、『さぼうる』は短い行列ができていて、並んでまで喫茶店に行きたいというスタンスが理解できなかった。僕は大体人と話すか本を読むためにしか行かないので。ひょっとしたら彼らは「さぼうるのコーヒー」を飲みに来ているのかもしれない。味の分かる人たち。

9日火曜日、タイムフリーで聴いた『マヂカルラブリーのANN0』で爆笑。こじるりとの根も葉もない熱愛疑惑で遊ぶ野田クリスタル。鈍感系主人公のくだりが面白すぎて流石に作業の手が止まりました。こういうアホみたいなネットニュースを、多少なりとも味付けして面白可笑しく語る遊びは現代だからこそだよな。ここ最近一番波長が合うのはマヂラブなので、ラジオを聴く耳にも力が入る。今週放送分のオープニングの音楽、最高でしたね。あの曲好きすぎて最近サブスクでめっちゃ聴いてます。

10日水曜日、渋谷O-nestで家主と福岡のカレー屋『Afterglow』の2マンライブ(?)へ。家主を観るのはこれで何度目だろうか。彼らのライブって観慣れることはあっても観飽きることは無いのだよな。

炸裂する田中ヤコブのギターといつまで経っても締まらないバンドの空気。彼らの音楽って、演奏が良いとかグルーヴがどうのとかそういうことではなくて、僕らの生活と同じ地平に広がってるのが素晴らしいのだよな。人の営みや街の時間が音楽の形をしているだけの話で、それがもう僕の感性の土台に組み込まれてしまっているので、家主の音楽を聴くことと生活をすることが同じことに感じられてしまうのだ。本当の意味での「フォーク」がここにあると思う。家主は民藝。

『Afterglow』のカレーは、そんな家主の音楽をイメージして作ったのだそう。じんわりとしたスパイスの辛さとピーナッツの甘味、4種の肉の旨味が美味しいカレー。一緒に行ったのがスパイスに詳しい調香師の先輩で、カレーを食べて「限界スレスレのハードなスパイス使いなのに、それを感じさせずに、優しい味わいになってるのが凄い」と言っていて、それって正に家主じゃんと感動した。田中ヤコブの狂気的なギターを内包した、ノスタルジーなフォーク。そこをしっかりと捉えてカレーで表現した『Afterglow』の手腕も素晴らしい。カレーと音楽の2マンという異例の座組みだったけれども、こういうイベントがもっと増えても良いと思うんだよな。あとカレーへの解像度が高いことがすごく羨ましかったので僕も勉強したい。

終わりで渋谷の『純米酒三品』というお店で軽く一杯。以前はお姉さんが一人でやっていたのを、男性が新たに引き継いだらしい。カウンターが数席の小さなお店で、お酒は熱燗が中心。夏は全くと言っていいほど足が向かなかったが、近頃の朝夕の寒さは熱燗を引き立たせるこの上ない肴なのだ。昔どこかの居酒屋で飲んだ、ビールを日本酒で割った飲み物の話をしていたら、お兄さんが作って飲ませてくれた。彼自身も手応えを感じたようで次からメニューに載せるとかなんとか。居心地も良いし、この冬は何度か行かせてもらうかもしれないな。

11日木曜日、客先訪問のついでに渋谷『茶亭 羽當』で一服。今の会社を立ち上げてから外に出ることなんてほとんどなかったのに、今週はたまたま2回も重なった。平日昼間に外に出ると何かしらしたくなるよな。ランチに行ったり、本屋に寄ったり、喫茶店で休んだり。こういう日のために東京中に行きたいランチマップ・喫茶店マップを作っておくのは大事だ。

この日記を定期的に書くようになってから、できる限りライフログ的に行った場所や食べたものの写真を撮り溜めようと思うのだけれども、なかなか習慣化しないな。インスタにあげたら満足してしまって動画しか残っていなかったり、酔っているのか料理の写真が超下手くそだったり。そもそもGRで撮れば良いのだけれども、持ち歩いてもSDカードが入ってなかったりするので自分が実に情けない。もう少し写真に対する意識を高めていきたいぞ。

12日金曜日、『カムカムエヴリバディ』が遂に戦争に突入してしまった…。『おちょやん』もそうだったのだけれども、明治〜昭和期の話だと絶対戦時を通過しなければならないのが辛いよな。今のところ、今作はなかなか面白そうな予感がしている。安子の恋の行方も気になるし、残る二人のヒロイン達がどう登場してくるのかが何よりの楽しみだよな。『おかえりモネ』の時は先が気になる瞬間がほとんど無かったので、やっぱりあれは面白くなかったのだなぁとしみじみ考えてしまう。早く動く深津絵里を画面で観たいです。

夜は高校時代の先輩とご飯。何かの話をしている時に「ブログに書いてたね」と言われ、意外なところにも読者がいるなぁと驚いてしまった。一時期は一定アクセスのあったこのブログも今では閑古鳥。それでも記事をあげれば数十〜100人くらいは読みに来てくれているのはとても嬉しい。あまり読まれている意識がないものだから、読んでるよと言われると嬉しさよりも驚きが勝ってしまう。これからの時代、人を動かすのは「憧れ」に他ならないと常日頃考えているので、その人の思考や暮らしが覗ける日記は一大コンテンツになっていくと思います。僕に憧れられる要素があるかどうかはわかりませんが、僕の生活は良いんですよね。これからもお裾分けしていきます。

13日土曜日、後輩に借りた史村翔・池上遼一『サンクチュアリ』を一気に読み終える。面白い面白いとは聞いていたのだが、ここ二週間ほどの『いろはに千鳥』でサンクチュアリクイズをやっていたこともあり読みたさが爆発。たまたま後輩が全巻持っているというのでまとめて借りてきたのだ。2日で全12巻を読破し、あまりのハードボイルドっぷりにクラクラしてしまった。表と裏の両面から日本という国に変革をもたらそうとした二人の男の情熱。その行動力となりふり構わなさは漫画ならではだけれども、見据える未来に向けて歩みを止めない姿は誰もがシビれるところだ。自分が描いた未来を、そこまで頑なに信じられる人間がどれだけいることか。少なくとも今僕がやっている会社が描いた未来くらいは、実現したいものだ。

少しだけ小言を言わせてもらうと、ストーリーとしてはよくできているけれども、作者・編集に泳がされているキャラが可哀想で感情移入してしまう。主に渡海。ヤクザ性を表現する媒体として機能しすぎているんだよな。

ちなみに今週の『いろはに千鳥』は待望の第2回豚バラびしゃがけ選手権。しかもゲストは過去2週に引き続きトータルテンボスの二人。トータルテンボスが出てる回は全部当たり回です。「楽しい時 美味しい時 絶対千鳥が横にいる」と無邪気に言える藤田の純粋さが大好きだ。全くハネなかったけれども『特攻フルスインガー』という番組でも千鳥とトータルテンボスが共演していて、あの二組の仲の良さには思わず頬が緩むのだよな。

14日日曜日、日曜日なので日曜大工をしようと思っていたのだが、持っているネジの長さが足りないことに気が付いてやる気を大いに損なわれる。Regaloの小倉さんのYoutubeでカルボナーラの動画が上がっていたので作ってみる。カルボナーラの主な分岐点ってニンニクを入れるかどうか・全卵を使うかどうか・生クリームを入れるかどうかだと思うのだけれども、僕はニンニクあり・卵黄のみ・生クリームありのカルボナーラが好きだ。本当はチーズも肉もこだわりたいのだけれども、ありもので作る僕のカルボナーラは粉チーズとベーコンだ。それなりに美味しく作れたので満足。

夜は中村佳穂の配信『きおくのきろく』を観る。2019年から今年10月に催された最新のライブまで、その時々の彼女の現在地を記録するように足跡を辿るアーカイブ配信。初めて彼女のライブを観たのが2019年のフジロック。朝一のヘブンで思わず泣いてしまったのだよな。僕なんぞが何をと言われてしまうかもしれないが、これまで観てきたどのアーティストよりも才能を感じた。ライブのグルーヴと即興性。そして歌に宿る躍動感と身体性。彼女の歌って「うた」なのだよなぁ。歌でもなく唄でもなく詩でもなく「うた」。純粋で、切実で、何よりも楽しい。音を楽しむと書いて音楽。ステージ上の彼女はその楽しさを、誇張もせず謙遜もせず音と声に乗せて届けてくれる。それはとても原初的な営みで、ある種の祈りのように響く彼女のうたは、歌であった以前の「うた」だと感じるのだ。

『きおくのきろく』は配信される全ライブが12月1週目までの公開なのでお時間ある方は全員観ると良いですよ。

タイトルとURLをコピーしました