一も二もなく面白い。こんな面白い漫画を書いてるのが同い年の漫画家で、しかもこれがデビュー作とは行く末恐ろしい新進気鋭のスーパーノヴァである。僕も頑張らねばという気概が湧いてくる。
初期衝動とクリエイター魂が炸裂した最高の第1巻に、あまりにも感動したので今日はその話をさせてくれ。
最高のクリエイター漫画『映像研には手を出すな!』
まずは何と言っても作者名。「大童澄瞳」と書いて「オオワラ スミト」と読むらしいこの作家名は、人名というよりも四字熟語のようで、素直に読み解くならば「澄んだ瞳の大きな童」と解釈できる。今年で24歳になる彼は、宮崎駿に影響をモロに受けており、それを全く隠そうとしない。その作風はまさにキッズのそれで、そんなアティチュードが大好きな僕は思わずシビれてしまうのだよな。
続いてあらすじを拝借。
アニメ制作×女子高生、青春冒険譚!
アニメは「設定が命」の浅草みどり、カリスマ読者モでアニメーター志望の水崎ツバメ、金儲けが大好きな美脚の金森さやか。
ダンジョンへ、戦場へ、宇宙へ–想像の翼を広げて、電撃3人娘が「最強の世界(映像)」を創り出す!
要は3人の女子高生がアニメを作る話なのだが、主人公(というより作者)のアニメーション愛が生半可ではない。
舞台は高校。それも普通の高校ではない。主人公曰く、
学校へ繋がる橋!
経緯不明の高低差!
水上に建てられた校舎!
度重なる増改築によって校内は複雑怪奇!
まさに公立ダンジョン!
というなんともファンタジーな学校。作中幾度となく描かれる校舎や校内の風景は正に奇々怪界。職員室の”中”にある階段や部室の真下を流れる川など、大童の描きたい風景がこれでもかというほど自由に散りばめられている。
例えばこのコマ。川にかけられた橋の中に窓、そしてその上には部屋があるという、愛すべき猥雑さとサイケ感、そして立体感のある奥行きである。吹き出しの角度もコマによって変わっており、奥行きや立体感を表現するのに一役買っている。
そしてこの漫画の肝は何と言っても、作者の妄想や描きたい世界を1mmも我慢する事なく作品内で爆発させている事だ。それを可能にしているのが、現実世界とアニメーションの世界を自由にスイッチさせるその作風である。高校の部室で過ごしていたはずの物語が、アニメの世界に没頭した途端、突然世界は妄想全開のファンタジーワールドへと切り替わる。
私の考えた最強の世界。
それを描くために私は絵を描いているので設定が命なんです。
とは主人公・浅草の言葉だが、それは紛れもなく、どんな妄想も現実となる最強の世界であって、この作品で描かれる彼女らの世界は途方もなく魅力的だ。
この『最強の世界』に初めて3人が入り込んだシーンなど、あまりのスケールに鳥肌がたった。なんせ彼女らの妄想にかかれば、それまで彼女らがいた校舎から一転、数コマでこの世界にまでトリップしてしまう。飛んでいるのは3人が設計した汎用有人飛行ポッド「カイリー号」。イラスト能力値を”宮崎テイスト力”に全振りしたとしか思えない風景である。
汎用有人飛行ポッド「カイリー号」の全体像。こんな見開きページが漫画の途中にでかでかと描かれる。設定は詳細に作り込まれていて、けれども現実味は全く無い。まるでドラえもんの秘密道具のようで、思わず細かい説明まで全部読んでしまう。
引きのコマを描かせれば、『AKIRA』や『鉄コン筋クリート』を思わせる混沌とした街並みを。そしてひとたび物語がアニメーションの世界へと飛躍すれば、宮崎駿リスペクトな世界観を湛えた風景を描く。その二つの世界が気付かぬ内に反転していて、今までとは全く違う絵を見せてくれるこの漫画。今一番続きが楽しみなのは『映像研には手を出すな!』かもしれない。
『映像研には手を出すな!』と繋がるカルチャー
こういうクリエイター系の作品は魂に響きますよね。ということで魂に響くクリエイターモノをご紹介。
まずはゲーム会社をテーマにした最高のクリエイター漫画『大東京トイボックス』。10巻完結とコンパクトながらそのクリエイター魂はまさに人間に生き様って感じでシビれます。未読の方はマジもんのおすすめです。
あとはもう一つ僕がものっそい影響を受けた小説『ロックンロールミシン』。服作りに関する小説なのだが、この小説の結末は自分の感性や価値観にとんでもない影響を残しています。『大東京トイボックス』でもそうですが、やっぱり細部に神は宿るんだなぁって感じた大切な作品。
『映像研には手を出すな!』に一言。
風景やら世界観についてばかり語ってしまったが、物語もなかなかの一級品。アニメ馬鹿、読モ、守銭奴と役者の揃った映像研。学食や部室騒動、生徒会との一悶着など、青春活劇としての要素もしっかりと兼ね備えた実力作である。
2巻今夏発売予定だそうで、また一つ夏が楽しみになってしまった。
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