日々のこと、2021年10月17日

日々のこと

花の香りや名前を覚えることは、世界の形を少しだけ知ることだと思う。街で見かけた花の名前が分かること、風が運んでくる花の香りが分かること、咲いた花に季節を感じられることは、時に花の美しさ以上に価値がある。スイートピーは繊細に見えて、毎日水を替えてあげれば三週間は保つこと。初夏に街を包む茉莉花の甘やかな香り。チューベローズの香りは僕の好きな香水の香りであること。カネコアヤノが歌う通り、ミモザは4月に咲くこと。僕は地球の分かり手になりたいので、自分が暮らすこの世界に対する解像度が上がることが何よりも嬉しい。

今の家に引っ越してきて2年ほど経つが、自宅にはほぼ必ず花を飾っている。僕は毎回、花屋に行く度に花の名前を聞くことにしていて、今では花屋に並ぶ花であればかなりの確率で名前がわかる。そして日を追うごとに増える花瓶とドライフラワーの数。先日植物好きの方から聞いた「植物より先に鉢が増える」という現象を、「怖…」と思ったものの、花瓶に関しては僕も似たようなものかもしれない。花によって使う花瓶を変える。使いたい器によってその日の料理を決める。器の需給は釣り合ってなくても良いものとした。

さて、そんな僕の日々のことです。

日々のこと、2021年10月17日

7日木曜日、柴田聡子『雑感』の素晴らしさで一日胸と頭がいっぱい。柴田聡子を柴田聡子たらしめていたのはやはり詩なのだと確信した。彼女の歌詞はすごく平易な言葉遣いで、そこに時折ハッとさせられるような赤裸々な心情が歌われる。そこに現れるのは彼女の人間らしさであり、その明け透けな感情は僕らの中にもきっとある。MVがあればきっと最高だろうと思うので大人しく待つことにする。

やや散文的な『雑感』の詩と、散文的にならざるを得ない日記。そして最近読んだ丸谷才一『文章読本』から学んだ言葉選びに関する知識が一つの考えとしてまとまりそうなのでブログを書きます。

8日金曜日、仕事終わりでマイメン松井に会いに五反田へ。五反田に行くとついついさらば青春の光の姿を探してしまうのは僕だけでしょうか。時にさらばのYoutubeの相席スタート山添の回、ご覧になられました?あまりにも馬鹿馬鹿しくて腹を抱えて笑ってしまった。ここ最近、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼。岡野陽一、鈴木もぐら、ラランド西田を始め、選手層の厚いクズ芸人の中でも僕はこいつが一番ヤバい奴だと思っています。顔が整っているのが逆に怖い。この「スリル」というゲームを編み出したあむあむワールド・すたみなの回はほんまもんの神回なので是非。

職場の兼ね合いもあって、マイメン松井とはよく五反田で会うのだけれども、この日はいつも二人で行くイタリアン居酒屋がコロナで休店中。やむを得ず近くにあった不思議な中華料理屋へ。中華なのにメニューにたこ焼きがあって思わず頼んでしまった。最近の冷食のレベルは異常に高いので、ここのたこ焼きも普通に美味しい。それ以外は不味くはないけど美味しくもない絶妙な中華料理を食べてからカラオケへ。松井と会うとだいたいカラオケに行くのだけれども、このカラオケは日常としてのカラオケというか、営みとしてのカラオケなのだよな。毎回特に盛り上がりもせず、この曲いいねとか言いながら1時間ほど歌って帰る。久々のカラオケではあったけれども、平常運転であった。途中でまもなく誕生日を迎える友人が合流。マイメン松井は先に帰り、彼女とはコンビニで一本だけお酒を買って飲んだ。

9日土曜日、ロロ『Every Body feat.フランケンシュタイン』を観に池袋へ。一緒に行った後輩が「池袋に来たなら」と連れて行ってくれた『NONSUCH』というパブがなかなか良い。思わず観劇前にパイントをキメてしまう。普段は夜になると爆音で音楽がかかっているらしいのだが、ご時世で21時閉店。いつかでかい音でUKロックが流れるこの店に来てみたいものだけれども、池袋と僕は折り合いが悪い。新宿以北と聞くとどうにも腰が重くなってしまうよな。

『Every Body feat.フランケンシュタイン』は、これまでのロロ作品とはかなり違う手触りの作品だった。音楽や照明の使い方といい、全体のトーンといい、役者陣の演技といい、今作はどこかダークな印象が強く、重たさと悲しさと温かさが入り混じった不思議な心地になる。個人的に感動したのは、『父母姉僕弟君』とのリンクだろうか。

ロロの過去の傑作『父母姉僕弟君』で描かれていたのが、記憶を残そうとする営みだとすれば、『Every Body feat. フランケンシュタイン』は、記憶にしがみつくための作品だったように思う。音、九相図、灰、骨、亡骸、そして優しいカニバリズム。大切な人との記憶を残すための媒体はいくつもあって、それは時に美しく、時にグロテスクだ。

「ぼくはどんな死も忘れたくないんだ。いつかの喜びや悲しみを、美化しないで風化もさせないで思い続けたい。」

「人は忘れるんだよ。忘れちゃうんだよ。だから、残さなくちゃ」

そう語るのは、亀島一郎演じるライカで、何かが壊れる音を蒐集しながら、死体を切り貼りして死者を永久に残し続ける。『父母姉僕弟君』でキッド(亀島一郎)が、天使(島田桃子)との思い出を繋ぎ止めるために「描写」という手段を取ったのに対し、今作で彼が取った手段はいささかグロテスクで、いかに美しい想いだろうと、時にそれは死者への冒涜のようにも映る。思い出を残し続けることの美しさと恐ろしさを感じさせつつ、過去な記憶と寄り添いたくなるような作品だった。

10日日曜日、急に洋食が食べたくなり豪徳寺の『洋食ボンバー』へ。洋食屋に来るといつもメニューに悩んでしまう。この日はハンバーグとチキンカツで大いに悩んだ結果、ハンバーグにチキンカツをトッピング。ふんわりハンバーグと衣厚めのチキンカツで大満足の昼食だ。入り口の看板、OもNも既に応急処置なのに、最早Pまで取れてしまっていて無事なのはEだけという有様。ここまで来たらもう買い換えれば良いのに。

ついでに『sunyo』でスパイスを物色。このお店には初めて来たのだけれども、ターメリックやマスタードシードが何種類かあって、原産国によって香りや色合いが全然違うのがすごく面白い。よくよく考えてみればお茶と一緒で、同じ植物であっても気候や育て方によって全く違うものになるのだよな。若干割高ではあるけれども、一袋50gというコンパクトさもありがたいし、何より近場にスパイスショップがあるのは素晴らしいことだ。これで新大久保やアメ横や葛西まで行かずともスパイスが手に入るぞ。

夜は一昨日も会っている友人の誕生日のお祝い。彼女はビールしか飲まない。

11日月曜日、週初めから妙に忙しいので三軒茶屋『新華楼』で夕飯。THEと言った感じの町中華なのに、箸入れや醤油刺しがピカピカなのがシュールで面白い。あと接客が良い。ご主人の雰囲気やご年配故の優しさに甘んじがちな町中華において、ここ『新華楼』の接客はシンプルに心地よいのだよな。そして何より焼き餃子。ここの焼き餃子は焦げの香りが最高に活かされていて、その香ばしさに箸が進むこと進むこと。二人で二杯ずつ飲んで4600円。堪らん。まだまだ食べたいメニューがたくさんあるので通い詰めなければならないな。

12日火曜日、誰にも言っていないが夏頃からポケモンGO熱が再燃。毎日数十匹のポケモンを捕まえては博士に送ることを繰り返している。この日は18時からゴースデイ。僕はゲンガーまで進化させてはいるものの、色違いを持っていないので片っ端から捕獲、送還。総勢60匹ほど捕まえたものの色違いは現れず。出る時はすぐ出るし出ない時はとことん出ないのが色違いなのだ。ポケモンGOの面白さは人それぞれだが、僕は図鑑を埋めていくことに幸せを感じるタイプ。現在捕まえたのは459種類で、目標の500種類まではまだまだ程遠い。今一番捕まえたいのはイワーク。先日近くにイワークがいるというので慌てて自転車を走らせたものの、そのエリアが完全に大学のキャンパス内で泣く泣く諦めた。

スーパーまで出かける間にORIGINAL LOVEのトリビュートアルバム『What a Wonderful World with Original Love?』を聴く。後輩が言っていた通り、本当に『接吻』を歌っているのが田島貴男で笑ってしまった。やはりこの曲だけは譲れなかったのか、それとも参加者がみんな恐縮したのか、経緯を知りたい。

13日水曜日、髪を切るついでに渋谷『ムルギー』でカレー。『新華楼』に続いてここも接客が本当に素晴らしい。細かく行き届いた心配りと、柔らかな物腰。カレー屋接客ランキングで第二位に輝いた。不動の第一位は恵比寿『ボンベイ』。接客が良すぎて格好いいと感じたのはこことNYのステーキハウスだけだ。

『ムルギー』のカレーは心地よい辛さを時折玉子で回復しながら食べる辛口欧風カレー。付け合わせに紅生姜があるのが珍しくて、食べてみるとこのカレーと絶妙に合う。玉子に漬物に紅生姜にと色々と味変をしながら食べるカレーは美味しかったな。カレーにおけるゆで玉子の回復力ってバカにできない。その点、『ムルギー』はこうして玉子を沢山乗せてくれるので信頼できる。昔どこぞで食べたカレーが激辛なのに玉子が3切れしか乗っておらず、この回復アイテムをいつ食べるかという駆け引きがすごいカレーがあったな。僕はエリクサーを温存しすぎて最後まで使えないタイプなので、大分終盤に駆け込むように3切れ食べました。

この日は急な新譜ラッシュで大忙し。小袋成彬『STRIDE』、パソコン音楽クラブ『See-Voice』、Yogee New Waves『WINDORGAN』、そしてBBHFの新曲『ホームラン』。まだYogeeが聴けていないのだが、残りはこの日の内に全て聴き切った。小袋成彬『STRIDE』はジャジーな雰囲気と楽曲の振れ幅が良い。過去2作と比べるとアルバム全体を貫くムードみたいなものが希薄なので、SNSを見ても皆挙げている曲が違うのが面白かったな。僕は『Butter』がスムースで好きです。パ音『See-Voice』は風通しの良い爽やかな音像がめちゃくちゃ良い。『DREAM WALK』『Night Flow』と舞台を変えてきた彼らの今作は、海辺・水辺といったテーマで作られているようで、音にもその爽やかさや透明感がよく現れている。

14日木曜日、数ヶ月ぶりに魂の故郷・下北沢『新台北』へ。ここ数ヶ月は緊急事態宣言を受けて休業していたのが、この10月から再開したらしい。営業時間は短くなってるものの、やってくれているだけで十二分だ。久々に食べる「ナスのバジル炒め」の美味しさたるや。昔下北の居酒屋でバイトしていた時代、0時の閉店後から終電までの30分間だけ、店の人らとよく行ったものだ。それこそ週2〜3回行っていたものだから、いつも行くと店の人がサービスで色々出してくれたほど。僕のおすすめは前述の「ナスのバジル炒め」と「イカとセロリの炒め物」と締めに食べる「担仔麺 」です。特に担仔麺は150円でミニサイズ。締めに食べる麺類の中で一番優しい麺類だと信じています。

16日土曜日、友人が主催した『TOKYO BOTANICAL MEETING』というイベントでお茶を淹れる。沢山の方にご来場いただきまして、トータルで120杯ほどのお茶を淹れさせていただきました。今回は急須で煎茶を淹れたのだけれども、1日に何十杯も淹れると、使い慣れていたはずの急須の新たな一面が見えてくる。正しいと思っていた淹れ方の先に、もっと正しい淹れ方が現れるあの感覚は初めてで、お茶を淹れるという行為の深淵さにまた一つ触れてしまった。今よりももっと精進していかねばならないな。

花沼とボタ沼はすごく近いところにあると思うのだが、僕はまだそっちの沼には足を踏み入れていない。花と比べて単価が高いこと、花と違って終わりがないからただただ増えていくだけだということ、器となる鉢の値段も高いことが、僕の警戒心を高める理由となっている。とはいえ、冒頭の世界の解像度の話に戻ると、花だけでなく、もちろん草木も学ぶべきだよな。

昔青森に旅行に行った際のこと、現地の方が穴場の写真スポットを案内してくれた。道とも呼べない森の中を進んでいく内、ふわりと甘い香りが花をついた。何の香りだろうと思っていたら、楓の樹液の香りだという。楓は英語でMaple、要はメープルシロップの香りだ。同じ森を歩いているはずなのに、知識を持っている彼と僕が見ている世界が全く違うことに衝撃を受け、自分も彼のようになりたいと思ったのだよな。

少なくとも今僕がわかるのは、実際に自分で飾った花達とお茶のことだけ。お茶に関しては茶の木のことも、飲み物としてのこともだんだん分かってきたけれども、そこに終わりが無いことが恐ろしくもあり楽しくもある。少なくとも自分が使う急須と淹れるお茶のことは、何から何まで分かっていたいな。人にお茶を淹れるのはとても緊張するけれども、こんな機会をくれる知人に大感謝だ。

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