日々のこと、2020年5月11日。愛する我が家と表参道『蓬莱』とおうち性について

日々のこと

自宅で過ごす時間が増えてきて、つくづく今の家に越してきて良かったと思う。陽当たりが良い。コンビニが目の前。ベランダが広い。畳の香りが好き。愛する我が家を愛すべき理由は枚挙に暇がないし、余人ならば気になるであろう築50年・ベランダ洗濯機・ユニットバスなどの欠点は、幸いなことに僕にとっては欠点たり得ない。

本に雑貨にCDにと、好きな物ばかりを集めた僕の城。引越しを手伝ってもらった友人らには「物が多すぎる」と散々苦言を呈されたものだが、何せ僕からしたら捨てるべき物が無いのだから仕方がないのだよな。

ちなみにアイキャッチのマンションは通りがかりに見つけただけの完璧なネーミングのマンション。我が家は池ノ上にあり。

日々のこと、2020年5月11日。愛する我が家と表参道『蓬莱』とおうち性の行方について。

先日、こんな記事を読んだ。

おうち性[Homeness]

“おうち性”とは、その名の通り、実家のような雰囲気──それはしばしば経年変化の進んだ壁や卓、意図のない置物や壁掛け、飾り気のない食器や小物などに由来する──を意味している。“おうち性”を備えた飲食店は、公共空間でありながら私的な生活の痕跡をそこかしこに残す。

興味のある方は是非ともリンクを読んでみていただきたいのだが、ものすごくざっくり言うと、公共空間における居心地の良さは何に宿るのか、という話。世の様々なコミュニティが、サロンやスナックのようにクローズな場所かフードコートのようにオープンな空間かに収束していく中で、ファミレスのような適度に開かれた空間と居心地の良さをデザインしていくことが求められている、という問題提起には同意しかない。

僕がそこに強く共感するのは、ごく短い期間ではあるけれども、飲食店を経営する立場だった経験からだ。座席はわずか数席。建坪にしてたった2坪の飲食店は、アクセスの良さも相まってどうにも身内の多い店ではあったけれども、やってる側はあれがすこぶる楽しい。昼過ぎからワラワラと知人が集まり始め、16時の閉店時には友人だらけ。閉店作業を終えるやいなや、まだ陽の沈みきらない時間から彼らと飲みに繰り出す。お店でゴリゴリ稼ぎたい訳でも無かったから当時はあれで良かったけれども、この先オープンする店舗は果たしてそうはいくまい。

6curry、ツカノマフードコート、渋谷パルコの地下1階 etc…様々な形態の飲食店が現れる中で、なるほど確かにおうち性を最も色濃く宿しているのは、サイゼリアや町中華や純喫茶かもしれない。表参道『蓬莱』、下北沢『新台北』、町田『プリンス(もう閉店してしまったけれども)』、これまで僕が通い詰めた中で、確かなおうち性を宿しているのはこの辺りだろうか。

これらに共通するおうち性の正体を朧げながらに掴もうとするのであれば、「適度な邪魔者」なのだろう。

蓬莱の名物店長はお構いなしに話しかけてくるし、新台北には常に酔っ払いがいて騒々しい。プリンスはその雑多な調度品の数々にどうしたって集中を乱される。そしてその「邪魔者」は意図してデザインされたものではなくて、あくまで蓄積の産物。飲食店側の人間性や拘りであったり、その店を客側がどう認識しているかであったりと、その空間に蓄積されたものが「適度な邪魔者」として機能していく。先述の記事中で「友達の母ちゃん・ポライトネス」と呼ばれているのもこれに近しい。

その上で、愛する我が家の事を考えてみる。

そもそもの話、僕はこの部屋を僕1人の為にはデザインしていない。根っこが寂しがり屋な僕は、友人が来た時の居心地の良さだったり、複数人で囲める食卓であったり、僕が友人と過ごす時間のことを考えて部屋を決めた。僕にとって自宅がおうち性を備えているのは当たり前として、我が家が友人にとってもおうち性を感じる空間であって欲しいのだ。そういう意味では我が家は飲食店やコミュニティスペース的な自宅なのだけれども、そこで目指すべき来客と僕が相互に「適度な邪魔者」であるという距離感*1は、ちょっと面白いと思うのだ。

僕は来客には必ずお茶を淹れるし、1人や2人なら過ごしやすいようにジャージも貸す。適当に料理を振舞うこともあるし、漫画も音楽もNetflixも自由に楽しんでもらう。僕はそれが楽しいから、我が家の来客は別に僕を手伝ったりしなくていいし、いつ来ていつ帰ってもいい。僕の趣味嗜好が色濃く反映された本棚や空間を楽しんでもらい、僕は来客と過ごす時間を楽しむ。人がいて初めて完成する我が家は、僕が引越し時に目指していた完成形の一つなのだよな。

その過ごし方はきっと僕や友人の中に蓄積されていって、加速度的に居心地は良くなっていく。例え住む部屋が変わっても、僕がそれを指向する限りその蓄積は無くならない。

このコロナ時代において、自宅や飲食店が持つ役割って大きく変わっていく。巷に溢れるツルツルとした均一的な空間には面白みを感じない事だし、僕らがいずれ作るであろう店舗は、少なからず我が家みたいなお店にしたいなと思う。

*1:例えば僕の部屋に遊びにきたら僕と話さなきゃいけないなんてことはなくて、漫画でも読みながら思い出したように会話する、みたいな。あくまで部屋が主役で、僕自身は副次的な要素で構わない。

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