空気公団の音楽はいつだって澄んでいて、するりと僕らの心に染み入っていく。
梅雨時の曇り空やどんよりと湿った街の空気。僕らの心に翳りを落とすそれらを、空気公団を聴いていると許そうと思える。それどころか愛おしいような気持ちにすらなるのだから、音楽ってやっぱりたまらない。
昨日から空気公団『僕の心に街ができて』ばっかり聴いてる。優しくて澄んでいてとても良い。 pic.twitter.com/ZRLhie62SC
— フジイコウタ (@repezen0819) 2018年6月4日
僕に空気公団を教えてくれた先輩から「空気公団が聴きたくなる季節きたね」というメッセージが来て、改めて梅雨入りを感じている。
— フジイコウタ (@repezen0819) 2018年6月12日
この方は「空気公団が合うのは曇りでしょ」という強い持論を持っていて、僕も大いに影響を受けたものだ。
さて、憂鬱な梅雨時を愛しむための素敵なアルバムをあなたと半分こしようじゃないか。
空気公団『僕の心に街ができて』
まず一発目の出音からして最高。
オープナー『美しい重なり』のイントロ、シンセとコーラスがガンガンにかかったギター。この豊かな2つの高音は、「空気公団の新譜」を前にほんの少し身構えた僕らの心をぐわっと拡げてくれるような感覚があって、この時点で既に僕らの心に街はできていると言っても過言ではない。
Vo.山崎ゆかりの透き通った声が紡ぐ日本語は、いつだって芯を食っていて、そのストレートな真摯さに僕は毎回ハッとさせられる。
失くしたものにしがみつく
新しいものが見えなくなる
そんな気持ちも わからなくはない
『美しい重なり』なんて歌い出しからして早速抜群だ。
そしてその歌詞に対するアンサーソングだと受け取れる8曲目『見えないままにしないで』。「新しいものが見えなくなる」と歌った彼女が、今度は「見えないままにしないで」と歌う。
明日も風の中に 隠れて 隠れていると思う
頑張れ 誰にだって 何にも 何にも無いんだよ
どこかに繋がる何かを待っているだけなら見えないままさ
伝わる気持ち 伝えたい温かい気持ちが
君に溢れている
1分19秒と短尺なこの曲の中の歌詞はたったこれだけ。ここで再び『美しい重なり』の歌詞に目を向ける。
数えてみたらたくさんの 顔が頭をよぎるんだ
笑顔も泣き顔も寒い夜も
何もかも 重なって 何もかも 繋がって
美しい日々になってゆくんじゃないかな
空気公団は”街”を美しい重なりと位置づけ、人や暮らしの重なりが”街”を作っていくと歌う。そこには人と人、人とモノ、人と街との繋がりがあって、とりわけこの作品で彼らが描きたかったのは人と人の営みだ。
人やその人のモノ、そして今はいないその人の事を想うという事。そういう想いの交換、言い換えるのであれば”繋がり”が重なりあい、”街”を成す。それを「美しい重なり」と名付ける空気公団の根底にあるのは、ポップスに共通して流れる人類全肯定とでも呼ぶべき思考で、オザケンやceroとも通ずるDNAを感じて嬉しくなってしまう。。
そう考えながらこのアルバムを聴くと、彼らの人とその慈しむような、真摯な愛の姿が見て取れる。
僕はこれを持ってして、このアルバムを名盤を断言してしまおう。
空気公団『僕の心に街ができて』を聴きながら
さて、「志村貴子が描くジャケットの絵」をモチーフに作られたという今作。ジャケットも当然のように志村貴子の書き下ろし。その淡い曲線と触れたら壊れてしまいそうな儚さで構成された彼女の絵は、空気公団の音楽と実にマッチしていて、志村貴子ファン必聴である。となればこの音楽、志村貴子の傑作漫画『娘の家出』と共に楽しまない訳にはいかんだろうよ。
あとはこういう耽美的っていうのかな。こういう世界観に触れるといっつもこのエッセイを思い出す。女性としての強さ、みたいなものをありありと描き切る江國香織の文章は、空気公団の優しい音楽ともよく合うはずだ。
そういえば昔、『なつやすみバンド』との2マンを観に行ったなぁ。
昔の文章だからひどい出来だけれども、それは僕が成長している証拠ということで。