東京の夜のようにざらりとした耳触り、電子機器的なサウンドと生体的なゆらぎのあるボーカル。ヒップホップ、レゲェ、R&B、ポップス。ありとあらゆるエッセンスを横断的に散りばめながら、その正体は決して掴ませない。
21歳の若き才媛、正体不明のアーティスト『Mom(マム)』の音楽がどうにもこうにも最高なのでこうして慌てて筆を取るのである。
もういっそインタビューとかしちゃいたい。
Mom『スカート』
YoutubeにアップされていたPVがなくなってしまったので映像をお見せできないのが残念だが、ベティちゃん、ゲームの電子音、ソニック・ザ・ヘッジホッグ、セーラームーン。果たして彼は本当に21歳なのだろうか。いやそんなことはどうでもよくて、この曲、ちょっと良過ぎやしないか。
潔くこの上なくシンプルなシンセリフ、淡白なギターのカッティング、ピコピコと軽薄な電子音。あまりこういう言葉を使うタイプではないのだけれども、とんでもないセンスの良さだ。音の配置もそうだが、現代っぽいサウンドを織り交ぜることも忘れないその如才なさ。ドリーミーなシンセ音に胸が踊るのは最早ある種の現代病だ。
そしてラップとも歌ともつかないどっちつかずのボーカル。人気のないイートインスペース、かき混ぜるブラックコーヒー、流行りの服に疲れたミュージック、君のスカート。緩急自在に日本語を操りながらも、描く情景はどこか欧米的。そして機械的なサウンドとは対照的に質感のしっかりとした実に人間的なボーカルは、声、音階、リズムの”ゆらぎ”が耳に心地良い。
Momの音楽
極めてJ-POP的なリリックやメロディ。歌もの然とした歌メロに、印象的なギュワンギュワンにコーラスのかかったギターががたまらない『東京』。
君のプレイリストに僕を加えてよ
というパンチラインが飛び出す『That Girl』。
彼女はヒットソングに板挟み
しらみつぶしに アナログにやるしかない
とか
ビートルズなんてもう聞かない
ジャズもAORも使い物にならない
といった歌詞からは、彼のシーンに対する姿勢が透けるというものだ。
そして初めてMomの音楽を聴いた時、僕の頭をかすめたのは福岡出身の2人組『アナ』だ。
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人間味の薄いサウンドと生々しいボーカル。その対比的な調和をMomの音楽からも感じたのだ。
でも多分僕が共感を覚えたのはそれだけじゃなくて、彼らの音楽が持つざらりとした質感みたいな部分が大きいのだろう。
5月の東京の夜、まだまだ肌寒いけれどもストリートにいるには絶好の空気。洗練され過ぎてしまったサウンドとどこか懐かしい歌謡曲のような日本語ボーカル。それは紛うことなく都市の肌触りで、その雰囲気や空気感がパッケージされた音楽。それが『Mom』の音楽の正体であり、この実に近代的で都市的な才媛の今後が楽しみでならない。