この世があまりにもカラフルだから、僕らはいつも迷っている
とは、森絵都『カラフル』の書き出しの一文だが、柴田聡子の通算5枚目となるアルバム『がんばれ!メロディー』のあまりのカラフルさには、随分と戸惑ったものだ。彼女の曲って、こんなにもカラフルだっただろうか。少なくとも『カープファンの子』の時のあなたは暗黒ダーク一色だったじゃあないか。
弾けんばかりのポップネスと色彩豊かなサウンド、そして柴田聡子の真髄とも言える歌詞。そのどれもが僕らを惑わすほどの自由さに満ち満ちていて、完全に日本語ポップスのネクストフェイズなのだ。
柴田聡子『がんばれ!メロディー』
前作『愛の休日』で見せたポップスへの転換、そしてそれが加速した今作『がんばれ!メロディー』。その所感はと言えば、僕がこれまで聴いてきたどのポップスとも違う。
そのメロディはいとも簡単に僕らの想像を超え、予想だにしない展開でもってして僕らを翻弄する。跳ねるように、踊るように、その歌声は自由自在に音階の海を泳ぎまわり、強弱も、高低も、何もかもが圧倒的に自由で、そしてどこか変だ。リズムも譜割りも、音程も。どこか違和感があるはずの歌なのに、感じるのは突き抜けるような心地よさと色彩豊かな情景ばかり。気が付けば彼女のポップネスは僕の胸中で炸裂しており、瞬く間にたまらない気持ちになってしまう。
極め付けは歌詞だ。僕らを煙に巻くように意味の無い歌詞かと思えば、急にハッとさせられるような美しさに満ち満ちたフレーズが飛び出す。
踏んだとこから星屑が
舞い上がるキラキラと
あの朝昼夜どれのどの時よりも楽しく
特に『涙』のこのフレーズは聴く度に本当に胸がいっぱいになってしまう。朝になって、夜になって、また朝になるこの場所で、特別だったあの瞬間のこと。その美しさってこんな風じゃなかっただろうか。これからの人生、そういう瞬間に触れる度にこのフレーズを思い出す。まるで宝物みたいな言葉だ。
もう一曲。PVもある『いい人』という曲なのだが、この詩なんてもはや絵画に近い。
紫陽花畑の一輪も雨を諦めて
しゅんと折れていた しゅんと折れていた
それに水をやる人を見た
それに水をやる人を見た
いい人を見た いい人を見た
前後の文脈をぶった切った引用を許して欲しいのだが、この歌を聴いた時、誇張無しで「フェルメールだ」と思った。何てことのない瞬間を切り取った絵画たち。そこには今にも動き出しそうな生物としての存在感に満ちていて、窓から差し込む光と落ちる影。絵画に閉じ込められたあの一瞬の静謐さと美しさと力強さと、同じものをこの曲からは感じるのだ。
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あまりにもベタ褒めしてしまったせいでどこか嘘くさくなってしまっている節もあるが、それに足る名盤だと断言してしまおう。昨年から世界的に続く女性SSWの隆盛。柴田聡子、彼女こそが台風の目だと気付いてしまった僕であった。
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僕柴田聡子好きすぎてめちゃくちゃ記事書いてた…全部どうぞ…