グロテスクで美しくて、身を焦がす音楽。GEZAN『Silence Will Speak』

再生ボタンを押した瞬間、マヒトゥ・ザ・ピーポーの獣のような咆哮が迎える。それはもう理性とか芸術みたいなものとは全くかけ離れていて、衝動に身を任せた男の咆哮でしかない。それはある種のグロテスクさすらたたえていて、身構えずにこのアルバムを聴き始めてしまうと嫌悪感を覚えずにはいられない。「ああ、こういう音楽ね。」って。

けれども、たった一度でもこのアルバムを聴き終えた後でなら、この慟哭こそがこの作品で最も美しいものだということが理解できる。マヒトゥの咆哮だけではない。

このアルバムの真髄って、オルタナティブな情動に突き動かされた、退廃的なノイズに存在する美しさだ。

一度聴いたら耳から離れない、そしてどこか叫び出したくなるようなメロディの猛襲。感情的で衝動的で、突き動かされるようにして発生した音楽。それらはダイレクトに僕らの心を揺らし、如何ともし難い切実な感情を呼び起こす。

エンドロールの終わり 今はロスタイム

残り時間は後どれくらいか 細胞に問う

-『忘炎』

アルバムのオープナー、初めて発される意味のある言葉でマヒトゥが、今がロスタイムだと語る。それは世界の終わりへのロスタイムなのか、現実への回帰なのか、それとも変化へのカウントダウンか。

アルバムはヘヴィでダークな楽曲から、次第に壮大にメロディアスな楽曲にシフトしていき、そして『Ambient Red』に収束していく。重たいドラムに脳を駆け巡るピーキーなギターのノイズ。それは何かが壊れゆく様を表現しているような音像で、僕らは例の「ロスタイム」が終わりつつあることを知る。

そしてもう一度マヒトゥが歌う。

壊れゆく世界で 出来るだけ覚えておきたいんだ

言葉にできない日々や 空が燃えるときの色のこと

『Ambient Red』

燃えるような夕日の赤、空を走る飛行機雲、伸びる影、揺れる髪。そんな日々のワンシーンを、掬い取り、刻み込み、歌い上げる。思い返してみればアルバム内で歌われる風景にはどこか覚えがある。そこには日常があって、感傷がある。そんなメロディはノイズの中でも異彩を放っていて、どこまでも美しく僕らの耳に刺さる。

思えばマヒトゥはこうも歌っている。

言葉にできない気持ちは

言葉にできない不協のままで

叫べばいい 叫べばいい

-『忘炎』

世界の終わりに際しても、世界の変革の只中にあっても、忘れない、忘れられない、忘れてはいけないものがある。GEZANはそれを掬い取り、叫びという形で表現している。もう一度このアルバムを聴いた時、その意味が初めて分かった気がした。

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