ループで積み上げる情熱とグルーヴ。Tash Sultana『Flow State』

Tash Sultanaの1stアルバムがちょっと震えちゃうくらいの怪作だ。良い、というか良すぎる、というか良すぎて死ぬ。サイケデリックな曲展開、怪物的なギタープレイ、そして魂震わすパワフルなボーカル。とにかく良い。一も二もなく良い。そこにはもう一切の議論の余地が無い。全員良いと言え。

そして真に驚くべくは、このアルバムの演奏が全て彼女によってなされているという点だろう。このアルバムを聴いて、これがたった一人の演奏によるものだとは気付く人はおるまい。ライブではルーパーを駆使し、ギターやボイスパーカッション、シンセサイザーでメロディを作り上げていく。その手腕はもはや魔法的だ。

積み上げる弱い魔法

ASIAN KUNG-FU GENERATION『ループ&ループ』

一つ一つは弱い魔法でも、幾重にも積み重ねることで観客を沸かす最強の音楽になる。僕はそのことをアジカンから教わったが、今の時代のキッズは、それをTash Sultanaから教わるのであろう。

弱冠23歳のオーストラリア発・超弩級女性SSW『Tash Sultana』の話をしよう。








Tash Sultanaというアーティスト

ルーパーを駆使した奏法というと、思い出すのは『Kishi Bashi』だ。

バイオリン奏者である彼は、普通にバイオリンを弾いても抜群なのだが、およそバイオリンとは思えない奏法をも駆使する魔法使いのような弾き手だ。そんな魔法使いが、ルーパーを駆使してさらに強い魔法を組み立てていく。実際にライブで彼がその魔法を構築する様を目の当たりにすると、彼の音楽の裏側を覗き見ているようで、さながら答え合わせのようなその作業が実に楽しい。

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そしてTash Sultanaが見せるルーパー使いは、端的に言って半端ない。

ギター、キーボード、ボイスパーカッション、サックス、フルート etc…あらゆる楽器を使いこなし、シンプルなビートに少しずつ命を吹き込んでいく。そこには同期(あらかじめ打ち込みで作った音楽。ライブの演奏と同時に流すだけなので演奏者はいない)にはないライブ感があり、決まった形ではないうねりや歪みもある。そうして作り上げた音楽に、彼女の情熱的なボーカルとギターが乗るのだ。

だから、彼女の曲を聴くならやっぱり音源よりライブだ。音源の完成度を楽しむのももちろん最高なのだが、ライブで彼女の楽曲が少しずつ完成していくのを目の当たりにするあのワクワクと昂まりったらたまらない。

ジミヘンに例えられることもある彼女のギター。何が良いってまずもうその表情。顔で弾くギター。表情の音がまんまギターから出ている。ギター以外でもそうだ。彼女のプレイスタイルは正に「音楽」と呼ぶにふさわしく、「音」を出すことを「楽」しんでいる。

そして実は、僕が彼女の音楽で一番好きなのはボーカルだ。特に歌い方。時にクールに、時に感情的に。表情豊かに歌声を使い分け、身振り手振りを使えるだけ使い、全身で歌に魂を乗せるような歌い方。そこには声以上に見た目のグルーヴがある。単純な言い方をすれば見ていてアガる。

ギタリストとしても光る才能を持つ彼女だが、ボーカリストとしての実力も突出している。ヒップホップも、レゲェも、R&Bも、全てがないまぜになって「Tash Sultanaの音楽」という一つの輪郭に内包されているのだ。その在り方こそ(あまりこういう言葉で片付けるのって好きではないのだけれども)才能やセンスの具現化だと言ってしまおう。

そういう熱量も実力も才能も、何もかもが圧倒的な彼女のパフォーマンスを見ていると、気付かない内にニヤケている僕がいる。時折「おほっ」とか「うはぁ」とか良いながらご機嫌でExcelを叩く僕がいる(最近は仕事中ずっとこれを聴いている)。これまで散々御託を並べた僕だが、こういう音楽って何と言っても聴いていて最高に楽しいのだ。

未だ1stをリリースしたばかりの彼女だが、知名度は急上昇中。来年はきっとどこのフェスでも引っ張りだこであろうことは想像に難くない。嗚呼、これをフジロックで聴けたらどうなっちゃうんだろうなぁ。ビール飲みながらめちゃくちゃに踊りたい。頼むぞSmash。

 

Tash Sultanaは聴いといた方が良いよ

個人的にはライブの方を推したけれども、音源にも音源の良さがある。何と言ってもあの完成度は音源にしかないだろうな。特にほぼ全曲に存在するインストパートのベースラインとギターソロ。あのサイケデリックで実に内向的な響きはもはやドラッグの粋だ。何も考えずあのギターソロを聴いているとグルーヴの渦にグイグイと引き込まれ、気付くと脳から甘い汁がダダ漏れになっているような気分になる。

そして僕はこれってもはやサウナのそれなのではないかとすら思っている。ずっと言っているのだが、サウナは自分との戦いであり、自分との対話であり、自己の探求であり、究極を言えば自己そのものですらある。サウナで身体を蒸し焼きにしているあの時間、意識が中へ中へと埋没していくあの感覚、Tash Sultanaのギターソロとまんま一緒ではないか。

間違いなく2018年のベスト10には入ってくるだろう名盤。僕がここまで言っているのだ。聴かぬは損。

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