『いつ恋(いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう)』を観て

『いつ恋(いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう)』を観て

アイキャッチは8話の練が引越し屋さんに戻って弁当を食べるシーン。練(高良健吾)が柿谷運送に戻ってきて、この3人で烏龍茶を飲むシーンがグッときすぎて大好きなのだ。

Netflixに坂元裕二『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』が登場してからおよそ1ヶ月。現在放送中の同じく坂元裕二脚本『anone』と並行して観続け、昨日ようやく全10話を完走したところである。まっこと面白い。テレビドラマとはこんなに面白いものだったのかと、齢25にしてようやく気付きました。世の若者はこんな面白いものを観ていたのかどうして教えてくれないんだと憤慨したものです。

ともかく、インプットしたらアウトプット。感想戦行きます。(多少のネタバレを含みますのでご注意)



感想

坂元裕二作品は、社会が抱えている歪みをエグいくらいに真正面から描き切る。今作においては経済的な格差だったり、介護にまつわるあれこれだったり、震災であったり。それらがあまりにもまっすぐ描かれるものだから、視聴者はギュッと胸を締め付けられる訳だが、そこにはしっかりと描かれる希望もあって、そこの塩梅に僕らは救われる訳です。

特に東京という街は、この作品においては人外ひしめく恐ろしい天外魔境のような描かれ方をする。ブラックな介護施設、第一部における佐引の理不尽さ、若者を搾取する怪しい派遣会社。田舎者である練や音(有村架純)は、その美しく優しい心が故に、故郷と東京のギャップに苦しむ。

だがしかし、そんな2人を引き合わせたのもまた東京という街なのである。坂道の多い雪が谷大塚という街、バスの後ろから3列目、捨てられていたサスケ(子犬)。

僕は昔から上京組に対する憧れが結構強くてですね。くるり『東京』然り、チャットモンチー『東京ハチミツオーケストラ』然り、地方から東京に来た人たちのエピソードって大好きなんです。ただ、ずっと東京近辺で育った僕にはそれは描けない。だから憧れている訳なんですが。

そんな訳で今作『いつ恋』みたいに、強烈に故郷とか田舎を感じさせる物語って、それだけで大好きなんですよね。

そして僕がこのドラマを語る上で外す訳には行かないのが、佐引というキャラクター。

 

佐引(高橋一生)

僕はこの高橋一生演じる佐引というキャラクターが、それはもう大好きでして。

第一部では主人公・練の職場の先輩としてとんでもない憎まれ役を演じたこのキャラクター。小室哲哉のブレーンだの、ウサイン・ボルトの師匠だの、終始胡散臭い虚言を撒き散らす幼稚で矮小な彼。ところが蓋を開けてみれば何てことはない、彼も練と同じ故郷を持ち、練と違って東京に夢破れた男の一人なのだ。

とはいえ佐引は敗者ではあるものの弱者ではない。職場には舎弟のような後輩がいたり、仕事では土下座も厭わない強かさを持っていたりと、東京の街で、彼はそれなりに上手くやっている。そんな彼が第5話で故郷の会津に帰る練にこぼした、

ずっりいなぁ、お前だけ。

というセリフには彼の人間味だったり哀愁だったりが溢れすぎていて、目頭が熱くなるのを堪えきれない訳で。いっそこのドラマのベストシーンであると断定してしまおう。

音に練の職場を教えて引き合わせたのは彼だし、不器用に練に手渡した誕生日ケーキは二人を同じテーブルに座らせた。間違いなくこの作品のキーマンの一人である彼は、人間の善悪という、この物語の主題の一部をも担っている。

第一部では金髪と黒髪の混ざり合った安っぽい髪色が、第二部においては黒髪になっている。この髪色の変化は当然彼というキャラクターの変化を表していて、第二部からは人が変わったように良い面しか見せない。第一部で嫌な奴だった事もあり、そのギャップに抗いようもなく僕らは佐引というキャラクターを愛してしまう。憎まれっ子世に憚るという訳だ。

第二部ではいかがわしい仕事に就き、人が変わってしまった練という人間。貧しさや悲しみは人をいとも簡単に曲げてしまう。そんな主題を、その身を以て表していたのが佐引というキャラクターなのである。

 

名言

坂元作品において、一番の見所は何と言ってもセリフ、モノローグの素晴らしさであろう。随所随所に散りばめられた名言の数と密度たるや、他のドラマの比にならない。

木穂子の恋愛を衣食住に例えたセリフも、

音ちゃんが誰を好きでも構わない。

世の中には二番目三番目に好きになった人と幸せになった人のがきっと多いはずだよ。

恋から始まらなくていい。ここで生きよう。一緒に生きよう。

というおぞましい愛の形を示した朝陽のプロポーズも、

お母さんにお願いがあるの。

私の恋をしまっておいてください。

私ね、お母さんが言う通り、好きな人と出会えたよ。ちゃんと恋をしたよ。

6歳の私に教えてあげたい。あなたは、いつか1人じゃなくなるよ。

その人はトラックに乗って現れる。

トラックの荷台には、たくさんの桃の缶詰が積んであって、

飴を一つあげると、バリバリと噛んで食べる。

恋をすると、楽しかったことは二倍になるよ。悲しかったことは半分になるよ。

それまで待っててね。頑張って待っててねって。

この恋は、私の大切な思い出です。

お母さん、どうか、しまっておいてください。

という音がなくなった母に宛てた手紙も。いずれも僕らの心を深く打ち、物語を綺羅星のごとく彩る。坂元裕二の脚本を書く力、略して脚力(ナイツネタです)の成せる技なのである。

が、この作品で僕がもっとも感動したのは3話の木穂子の独白である。

私は新しいペンを買ったその日から、それが書けなくなる日のことを想像してしまう人間です。

(中略)

私は朝起きると、まず始めにに今日1日を諦めます。

だけどきっとまだ心の奥のところで、諦めが足りなかったのでしょう。

練に助けられた時、ずっとこのまま抱きしめられていたい、と思いました。

本当の自分を見られるのが怖かったから、嘘をたくさんつきました。

あなたの前で、もう1人の自分になれることが嬉しかった。

日向木穂子でいられることが嬉しかった。

(中略)

でも、もうそれも止めにします

練、あなたと付き合いたい。あなたを恋人だと思いたい。

買ったばかりの新しいペンで、思う存分あなたを好きだと綴りたい。

こんな長文を書き起こしてしまう僕の暴挙を許してほしい。全くこの第一文の破壊力ったらとんでもなく、あまりの切なさと文章力に完全にノックアウトされてしまった訳です。

 

第2部の微妙さ

さて、ここまで高評価のみを述べてきましたが、率直に申し上げて、第1部に比べて第2部はちょっと微妙ですよね。

練が辞めると言った瞬間に一緒に仕事を辞める晴太の謎さ、晴太と小夏の恋路の薄っぺらさ。クライマックスを控えた音が階段から突き落とされるというお決まりシーン。

特に突然明かされる晴太の出自と必要性を感じない二人のラブシーンが、このドラマの濃密な切なさを薄めているのは間違いないし、クライマックスを控えた主人公を、階段の上で揉めさせるなどというステレオタイプなど、この作品では見たくなかった訳です。

大きく目につくのはその辺りですが、1〜5話は全体的に物語が濃密にまとまっていたのに対して、後半は必要性の薄いエピソードが多いなぁという印象。

 

総評

グダッている箇所はあったとはいえ、この作品が面白かったっていうのは事実。

作中で音も言っていた通り、悪いところは目につくのに、良いところはよく探さないと見付けられない。僕は心に残った数々の名言と二人のハッピーエンド、それと佐引が見られただけで満足です。

 

おわりに

勘の良い人はお気付きの通り、ヒコさんの書くブログ『青春ゾンビ』を愛読しております僕です。影響を受けやすいので、自分の好きな人が好きだと言っているものは全部観たくなる訳です。

という訳で坂元裕二作品、もっと観たい。

『最高の離婚』『問題のあるレストラン』『それでも、生きていく』あたり。Netflix頼む。

 

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