『ゾンビランドサガ』がなんであんなに面白いのかを本気で考えてみた

いいドラマ

『ゾンビランドサガ』が底抜けに面白い。

まず楽曲がいい。ポップでキュートでメッセージ性も抜群。アイドルソングとしての強度を十二分に持った曲が作中で7〜8曲も聴けるだなんてたまらない。次に振り付けがいい。楽曲にバッチリと合った振り付けは曲の魅力を何倍にも引き立てるし、目線運びやメンバーごとの細かい動作の違いもしっかり描かれていて最高だ。そして最後にストーリーがいい。これはもう見てもらう他ないのだが、とにかく素晴らしいの一言に尽きる。

ゾンビ×アイドル×佐賀という共存し得ない三本柱を抱え込みながらも、そのインパクトと純アイドルものとしての圧倒的クオリティ、さらには地方創生的な側面も大々的に打ち出し、2018年ベストアニメの呼び声も高いこの作品。

参考記事:ネットユーザーが本気で選ぶ!アニメ総選挙 2018年間大賞

ゾンビ化した少女たちがアイドルとなって佐賀を救う

アニメの主題としては前代未聞の訳分からなさだが、これこそが正真正銘この作品の真髄であるからして、既に2周を終え3周目に入りつつある僕はこれを馬鹿にすることなんて、例え親が質に入れられようともできやしない。

群雄割拠のアイドル戦国時代に、なぜ今更アイドルものの『ゾンビランドサガ』が一世を風靡したのか。なぜゾンビなのか、なぜ佐賀なのか。何故この稀代のイロモノが大傑作たり得たのかを、あーでもないこーでもないと本気で考えてみたのでお付き合い願いたい。

『ゾンビランドサガ』とは

1号・源さくら(一般人)

2号・二階堂サキ(伝説の特攻隊長)

3号・水野愛(伝説の平成のアイドル)

4号・紺野純子(伝説の昭和のアイドル)

5号・ゆうぎり(伝説の花魁)

6号・星川リリィ(伝説の天才子役)

0号・山田たえ(伝説の山田たえ)

この7人で結成されたアイドルユニット「フランシュシュ」が、佐賀を救うために全国制覇を目指すというストーリー。当然全員ゾンビである。

『アイマス』『ラブライブ』『アイカツ』といったアイドル作品が数多く存在する中、「ゾンビ」と「佐賀」という冗談みたいな特殊属性がこの作品を唯一無二のアイドルアニメへと昇華させている。

本稿では、まず始めに平成のアイドルカルチャーがどのような変遷を辿ってきたのかを論じ、その上で『ゾンビランドサガ』の特徴である「ゾンビ」「楽曲」「地域性」について個別に解説していくものとしよう。

 

アイドルカルチャーの変遷

日本のアイドルカルチャーを遡った時、時代の転換点は何と言ってもAKB48だろう。

この国民的アイドルの出現により、日本における「アイドル」はその姿を大きく変える。

それまでの、特に昭和のアイドルは、完成された美しさやパフォーマンスで人々を魅了するもので、ファンとの交流は極力少なく、むしろ意図的に神秘的な存在として演出されていた。

それに対してAKB48は「ファンと一緒に育っていくアイドル」「会いに行けるアイドル」であることを前面に打ち出し、チェキや握手会、専用劇場での定期公演などの画期的な手法で、アイドルとファンとの距離を劇的に縮めたのだ。インターネットとSNSの普及もそれを助長した。

AKB48の後には同じようなコンセプトでももクロが続き、さらには国境を越えてKARAや少女時代などのK-POPアイドル(K-POPでは日本のアイドルと違い完成した状態で活動が始まる)も交えながら、地下アイドルやご当地アイドルが無数に現れ今に至る。そしてそれに追随するように現れたのがアニメや漫画などの2次元アイドルカルチャーである。

『IDOL@MASTER』『ラブライブ』『マクロス・フロンティア』『アイカツ』『AKB49』etc…ゲーム、アニメ、漫画と、様々なメディアでアイドルが題材となった作品が生まれ、作品によっては社会現象にまで波及したものもある。ソシャゲの『デレステ』なんかはCMにSMAPの中居くんを起用して話題になったよね。

そして僕は、このテン年代に起こったアイドルカルチャーの勃興こそAKB48の功績だと信じて疑わない。

AKB48以降、「アイドル」という存在は圧倒的に身近になった。アイドルとしての重責や葛藤、対立やチームワークなどの生の「アイドル活動」がTVやブログ、SNSを通じて可視化され、そしてそこにはファンの知る由もなかったドラマがあった。そこにドラマ性を見出したクリエイターが、種々のアイドルカルチャーを生み出したのだ。

一般人でもオーディションを通じてアイドルになれるその仕組みによって女の子はアイドルに憧れ、男性はより身近になったアイドルと交流しながら応援する。そうして市民権を得たアイドルカルチャーは、ニコ動・ネットゲーム・アニメ・ソシャゲを媒介して大衆に浸透していったのだ。

そうして発展してきたアイドルカルチャーだが、テン年代も終わりに差し掛かった昨今では、ある意味飽和しつつあるとも言える。そんな現代のアイドルカルチャーに風穴を開けるべく送り出されたのが、この『ゾンビランドサガ』なのだ。

 

『ゾンビランドサガ』の魅力

まず始めに言っておきたいのは、『ゾンビランドサガ』のアイドルものとしてのクオリティが驚くほど高いということだ。

楽曲と振り付けの高い完成度、個性の立ったキャラクター達、回を追うごとに深まっていくメンバーの絆と増えていくファン、12話で見事にまとまった起承転結のあるストーリー。それだけでも十分に評価されるであろう、アイドルカルチャーとしての強度が『ゾンビランドサガ』にはある。

それを理解してもらった上で、なぜ『ゾンビランドサガ』が平成を代表する大傑作アイドルカルチャーとなり得たかを要素ごとに解説させてもらおう。

 

なぜゾンビ?

一見イロモノと受け取られがちな「ゾンビ」要素だが、作品を見進めていくとそれが物語に必要な要素であったことがわかる。

彼女ら7人は元々バラバラの時代で既に一度死んでいて、同じ時代にゾンビとして蘇っている。花魁、昭和のアイドル、平成のアイドル。本来であれば同時代に存在し得ない彼女らは、ゾンビであるが故に同じアイドルとして活動することができている。その設定を最も活かして描かれたのが、3号・水野愛と4号・紺野純子の2人の間で生まれた、アイドル観の差異による対立だ。

完成されたパフォーマンスでファンを魅了するのが当たり前で、ファンとの交流や、ファンに育ててもらうという考えを理解できない純子と、未完成でも全力のパフォーマンスでファンと一緒に育ってきた平成きってのアイドル・愛。時代によって変わるアイドル観の対立をメンバー内で起こすためには、彼女らがゾンビであることは必然だったのだ。

あとは何と言ってもゾンビギャグが全部面白い。作中ケタケタ笑えるシーンが何箇所もあって、そういったコミカル要素もこの作品が愛される由縁だろう。

 

アイドルソングとしての強度

1話ではメタル、2話ではヒップホップ、3話以降はロックやポップス中心のアイドルソング、そして7話では落雷によるケロケロボイスと、とにかく振れ幅の広いパフォーマンスを披露してきたフランシュシュ。

確かに、アイドル戦国時代はアイドルの多様化を押し進め、それに伴いアイドル音楽は派生した。Perfume、ももいろクローバー、BABY METAL、lyrical school etc… いずれもアイドル音楽の枠組みを大きく広げたアーティスト達だ。

あれ?これって全部フランシュシュもやってるんじゃない?

そう、ゾンビランドサガは平成に散らばったアイドルという要素を拾い集め、多種多様な楽曲とともに1作品の元に集約しているのだ。

そして何がすごいって曲が全部いいんだよね。『目覚めRETURNER』『To My Dearest』『ヨミガエレ』『FLAGをはためかせろ』いや冗談抜きで全部いい。僕の一押しは『To My Dearest』。大サビの後に超サビが来るような展開には毎回グッときます。6号・星川リリィのエピソードも踏まえて聴くとこれまた最高にグッと来るのでおすすめです。

 

なぜ佐賀?

タイトルには「サガ」、エンディングには「企画協力 佐賀県」ともある。さらには制作協力でもあるCygame社長が佐賀出身とのことで、この上ない佐賀アニメとして仕上がっているのが、この『ゾンビランドサガ』の1側面だ。

これまでこんなにも特定の地域をフィーチャーして作られたアニメがあっただろうか。

『デュラララ!』は池袋、『STEINS; GATE』は秋葉原の話だが、どちらも東京。それも舞台となっているだけで、濃密な地域性があった訳ではない。

佐賀のことを「風前の灯火」とすら断言しながらも、佐賀県民しか知らないであろう「サガジン」「ドライブイン鳥」「ガタリンピック」などの超ローカルネタをガンガン放り込み、出てくる街並みもライブ会場も全て佐賀という異常なまでの佐賀っぷり。

これ、ちょっと新しいカルチャーの在り方だなぁと思うのだ。

昨今のアニメの舞台への聖地巡礼とかってバカにならない経済効果を生むし、駅や街並みや特産物などもアニメ中にたっぷり紹介されていて、佐賀県自体の宣伝としてはこの上ない効果がある。事実僕も「ドライブイン鳥」はマジで行ってみたいと思っているくらいだし。

アニメを使って町おこし。客層は限られるかもだが、いいじゃあないか地方創生。ようやく地方も情報発信の大切さに気付き始めたこの時代。アニメとがっぷり四つで組んだ作品作りとは実に斬新で見事だ。僕も日本の地方は大好きだし、そこに何か1つきっかけがあれば足も向かうというもの。事実佐賀県への旅行者は増えているようだし、2期3期と作品が続くにつれてそういった人も増えてくるはずだ。

あとはこう、Cygameの社長が「地元を盛り上げたい!」という一心でやってるエゴな部分もいいよね。こういうエゴが全力で発揮されたカルチャーにはカラーが色濃く出るし、動機がお金の地方創生とは受け取られ方が全く違う。

死んだ街を蘇らせる≒ゾンビというシンクロもあっていいしね。

 

アイドルものとしての『ゾンビランドサガ』

最後に、アイドルものとしての『ゾンビランドサガ』を、純粋に僕の所感で語らせてもらおう。

最初はアイドル活動に前向きでなかったメンバーが、回を追うごとに結束し、同じ目標に向かって一致団結していく。メンバーの結束はそのままパフォーマンスに直結し、ライブでのパフォーマンスもどんどん良くなっていく。

そして次第に拡がっていくファン層。最初はメタラー、おじいさんおばあさん、アイドルに憧れる小さい女の子、昔の不良仲間、そして一般人に到るまで、フランシュシュの人気は留まる所を知らず高まり続ける。

ステージもそうだ。最初はチケットノルマのあるようなライブハウスから、路上や小さな地域イベント、果てはフェスのヘッドライナーを務めるまでに到る。

何が言いたいって、これってまんま平成アイドルの軌跡なのだ。次第に成長していくアイドルの姿。古参ファンは成長した彼女らの姿に涙し、新たなファンはそのパフォーマンスに魅了される。そもそも日本のアイドルファンはその軌跡を見守っていくことこそが本分とも言えるし、そんなファンの姿もしっかりと描いている。

要するにこの作品、アイドルもののツボとことん押さえているのだ。そこに前述の様々な要素も絡み合って、「アイドルもの」としての強度をさらに高めている。

そんなもの、面白いに決まっているのだよな。

 

おわりに

長々と5000字近くも書いてしまった。

ほぼ確実に2期もあるので、それまでに観ておくべきだと思いますよ!

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