ガール・ミーツ・ガールの金字塔。ロロ・いつ高 Vol.6『グッド・モーニング』

ガール・ミーツ・ガールの金字塔。ロロ・いつ高 Vol.6『グッド・モーニング』

「エバーグリーン」とは何か。

『The Pains Of Being Pure At Heart』の1stか。もしくはあだち充『タッチ』か。はたまた『プロポーズ大作戦』だろうか。いずれも大正解には違いないが、ベストアンサーではない。というのもつまり、ロロ・いつ高シリーズがVol.6『グッド・モーニング』だ。

舞台はいつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校の駐車場。時刻は朝、登校してくる生徒の誰よりも早い時間。

折角だ、あまりにも素敵な公式のあらすじを拝借しよう。

誰もが惚れ惚れするような「おはよう」を言ってみたくて、私はひとり朝練をしてる。まだ誰もいない駐輪場で、完璧な「おはよう」の特訓。昨夜を光に返してあげるための「お」と、朝霧に溶けて忘れさられる「は」と、チャイムにもかき消されない、あなたにだけ手渡す「よ」と、どこまでも伸びて夕暮れまで残る「う」を言えるように、ひたすら口角筋を鍛え上げていく。お、は、よ、う、お、は、よ、う。遠くから誰かのペダルを漕ぐ音が聞こえてくる。いよいよ本番だ。開口一番、私は青春史上最高の挨拶を決めて、きっとあなたは一目惚れをする。








ロロ『グッド・モーニング』

「今日あっついねー」「眠いねぇ」「1限から数学やだなぁ」

初対面の二人の間で交わされるありきたりな会話達。この「ありきたり」がいかに輝かしいものだったのかを、三浦直之は全力で描き出し、大場みなみと望月綾乃が全力で演じきる。

思えばこの「ありきたりな会話」とは、初対面であっても、親友であっても、片想いの相手であっても、隣の席の対して仲の良くない友人であっても、僕と他者を等しく均一に繋ぐ言葉であった。世界中で幾千、幾億と繰り返されてきたこの営みの輝かしさは、三浦直之の脚本を介して舞台に投影された時、初めて僕らの感度で捉えうるものとなるのだ。

そしてこの「繋ぐ」という行為は、この『グッド・モーニング』の中で一つの主題として描かれている。

高校時代、僕ら数百人の人間の中には、下手をすればその人数よりも多い壁が存在していて、あの短い3年という時間の中で、その壁は決して繋がらない断絶として存在し続けていた。ところがここ「いつ高」に限って言えばそのような壁は一切存在せず、ありとあらゆる人間性と関係性は肯定され、受容される。

学校中に盗聴器を仕掛ける不登校児の<逆>乙女と、学校中の手を繋いだ瞬間を写真に収め続ける白子。

早朝の駐輪場で邂逅を果たした2人の少女。彼女らをまず繋いだのは小沢健二『愛し愛されて生きるのさ』だった。それから『ポンキッキーズ』『おはスタ』『ハライチのターン』等のカルチャーをきっかけに、弾み始める2人の会話。(時に『ハライチのターン』に関しては、ぼちぼちカルチャー界隈の人間の最大公約数として語られてもおかしくないレベルのマジョリティーを獲得しているのではないだろうか。)

他の生徒が登校する時間に彼らとすれ違いながら下校して、他の生徒が下校して無人になった校舎に登校する日々を繰り返す<逆>乙女。彼女にとっては、唯一生徒とすれ違う朝の時間。本来すれ違うだけの「彼女にとっての昨日」と「他の生徒にとっての今日」とを半ば強引に繋げたのは白子の眩いほどの寛容さで、そして同時に<逆>乙女の純真さだ。そうして繋がった2人の少女の関係性は、観客を巻き込み、次第に外界へと繋がって行く。

こうして数々の繋がりを得た2人の少女は、LINEを交換する。駐輪場の端と端で言葉ではなくLINEを使って会話する2人。あの純真さったらそんじょそこらの高校生すら遥かに凌駕していたし、舞台の本当に最後の最後、口に出して交わされる「おはよう」の挨拶。物語の初めに交わされたぎこちない「おはよう」と、1時間越しに改めて交わされる「おはよう」のみずみずしさ。この1時間で育んできた2人の関係性がぎゅっと凝縮されたような「おはよう」の挨拶には、思わず胸がいっぱいになってしまった。

嗚呼、エバーグリーン。高校演劇のルールに則って上演されるこの演目は、舞台上のセッティングも含めて60分きっかり。今回の『グッド・モーニング』に至っては演者はたった2人、舞台にあるのも駐輪場のセットと2台の自転車のみ。たったそれだけのエッセンスでこの物語を紡ぎ出す三浦直之の手腕には脱帽だ。これまで数々のボーイ・ミーツ・ガールを描いてきた彼の渾身のガール・ミーツ・ガール。これまでこのブログでも彼の携わった作品をいくつも紹介してきたものだが、青春・純愛・高校生を描かせたら彼以上に純真無垢でキラキラした物語を書く人っていないんじゃないだろうか。

江本祐介『ライトブルー』が良すぎるんだが

『それでも告白するみどりちゃん』ってドラマが最高なんだよ

最後に、数年後の僕がこの記事を読み返した時、この舞台を昨日のことのようにありありと思い出せるように、僕が心打たれたシーンを記しておく。申し訳ないがこれは完全に私信なので読み飛ばしてくれて構わない。

  • 手汗と「魔法じゃん」
  • 朝の占いが僕らに想像しうる最も遠い未来
  • 軽部喫茶。シューマイは軽部に似ていて、<逆>乙女も軽部に少し似ている
  • 足音とダンス

次の『いつ高』シリーズは11月。是が非でも観に行くぞ。

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