仮にも一端の漫画読みを名乗っている僕である。数々のスポ根漫画を読んできたものだが、社交ダンスを題材にここまでアツいスポ根が描けるとは。そしてこの社交ダンスという一見とっつきにくい題材を、鬼アツ最高のスポ根漫画に昇華させたのは、竹内友の画力に他ならない。
躍動感、臨場感、逼迫感。そもそも人体の動きが全てと言っても過言ではないダンスを、静止画の連なりで表現しきる技術。そしてそれはともすれば、実際のダンスを見るよりもリアルに、実に生々しくその魅力を伝えてくれる。
ただ先に断っておかねばならないのは、4〜5巻あたりを境にガラッと作風が変わる。絵は変わらないものの、ストーリーの運びが急にもったりしだすのだ。ので、ここで僕が話すのは1〜4巻までの話。既刊9巻までも当然面白いのだが、僕レベルの漫画読みを唸らせる事ができるのはあくまで1〜4巻まで。逆に言えば、『ボールルームへようこそ』の1〜4巻は、漫画史で指折りの傑作なのだ。
『ボールルームへようこそ』
昨年のアニメ化も含め、少し前に話題になったこの漫画。少し前とは言っても連載開始は2011年、僕が初めてこの作品を読んだのも2016年頃の事なのでまあまあ昔だが、先日久々に読み返した時、あまりの面白さに胸熱を感じたのでこうして記事にしている。
『ボールルームへようこそ』のあらすじ
タイトルのボールルームとは舞踏室の意味。この漫画の題材は僕のような人間には全くと言って良いほど馴染みのない「社交ダンス」である。
ここ10年くらい、この手のマイナー競技を取り上げる作品が多くて辟易してしまうものだが、この作品は高い画力とサクサク進む軽快なストーリーで、僕ら読者にものすごく”読ませる”作品に仕上がっている。
主人公は藤田多々良という中学三年生。進路に悩んでいる時に偶然ダンスと出会ったズブズブのダンス素人。
スポ根におけるこの手の未経験系の主人公達は、他人よりも圧倒的に優れた能力を自らも気付かない内に身に付けているのが世の常。『アイシールド21』の小早川セナはパシリの経験から超高速ランを、『弱虫ペダル』の小野田坂道は自転車でアキバに通い続けている内に超高回転数クライムを身につけていた。
では藤田多々良の能力とはなんなのか。
それは作品を読んで確かめて欲しいのだが、その能力を鍛えたのは相撲の実況。そしてヒントは森絵都の『DIVE!』だとだけ言っておこう。
スピーディーな展開と軽快なストーリー
さてさて、前述の通り読者をグイグイと物語に引き込んでいく”読ませる”作品であるこの漫画。その理由は、展開のテンポの良さに拠る部分が大きい。
一口に社交ダンスと言っても、ワルツ・タンゴ・クイックetc…と、いくつものジャンルが存在する。そのジャンルごとに音楽や雰囲気、必要な技術は全く変わるし、振り付けもジャンル毎に覚えなければならない。当然初心者たる多々良は全てのジャンルを一から学ぶ訳だが、彼は前述の能力によって、驚異的なスピードでそれらのジャンルを体得し、3巻の時点では既に試合に出場している。
もちろんその間に修行パートは描かれているものの、必要最低限。どちらかと言うと試合の中で成長していくタイプの主人公なので、熱血な修行パートは若干少なめ。それでもキチンと努力の痕跡は描かれているし、スポ根としての最低要件は満たしているのでご安心。
そして何より、読者に1ミリたりとも退屈を許さない試合パートが大変にアツい。
ぶつかり合うダンサー達の熱気と、その動きの流麗さや美しさ。社交ダンスの魅力の全てを、漫画という形に落とし込んだと言っても過言ではない、とんでもないクオリティのダンスシーン。特に3〜4巻で描かれる試合シーンの、手に汗握る緊迫感はちょっと異常だ。ページをめくる手が全く止まらないあのヒリつく様な感覚は、漫画を読む事の醍醐味だ。
そしてそれを可能にしているのは、何と言っても作者の高過ぎる画力である。
圧倒的な画力
百聞は一見にしかずと言うし、これに関しては実際に見てもらった方が早かろう。
多々良の真価が現れるシーン。躍動感と表情、そして一人で練習に励んでいる事が強調される最後のシーンの美しさよ。
4巻の試合中の1シーン。大胆な見開き斜めコマ割りが躍動感とスピード感をこれでもかと煽り立てる。動作の細かい描写も見事で、ダンスをした事どころか、見た事すらもまともにありはしない僕でさえも、多々良の動作のイメージがくっきりと浮かぶのだ。
当然の様に女の子も可愛い。それも全員可愛い。
ここに挙げたのはあくまで一例。読み進めるほどに引き込まれていく白熱のダンスシーンは、この画力があって初めて成立するもの。そして、いつしか手に汗握りながら物語に没頭した僕らは、試合の決着を固唾を飲んで見守っている。
最後にもう一度言おう。『ボールルームへようこそ』の1〜4巻は、最高のスポ根漫画だ。
これ以外の最高のスポ根マンガはこの記事で紹介しているので、こちらも是非。
『ボールルームへようこそ』の世界
さて、この『ボールルームへようこそ』の世界観にもっと浸るために、いくつかのカルチャーを紹介しようじゃあないか。
まずは前述もした森絵都『DIVE!』
森絵都が描くスポ根は汗臭さとか泥臭さがなくてサラリとしている。そんな中にもアツさはちゃんとあって、主人公の葛藤とか能力が多々良と被るのだよなぁ。あと超優秀なコーチが目をかけてくれるところとかも一緒。
あとはLampの『さち子』かな。
ダンスって、ダンスである以前に音楽だと思うのだが、その中の一つ、ワルツ(舞踏曲)のリズムが結構好きだ。ワルツのリズムは三拍子、この『さち子』も三拍子。決してダンスで使われるような音楽ではないのだけれども、この漫画の世界と、僕らが聞いている音楽がきちんとリンクしているという実感が得られるのがナイスだ。
ダンス、いつかやってみたいな。日常の所作とかが美しくなるような気がしていて、茶道と並んでやってみたい習い事トップ2だ。