ふわふわとした掴み所のない質感でありながら、その美しさにため息の漏れるようなアルバムである。
多方面で2016年ベストアルバムの呼び声の高い傑作アルバムのことを語らせてくれ。
Frank Ocean『Blonde』
多方面で「アンビエント・R&B」なんて言い方をしていたが、言い得て妙。このアルバムをR&Bと呼ぶにはあまりにもアンビエント過ぎる。アンビエントという言葉の意味を丸っと正確に理解している自信は全くないのだが、ふわふわと輪郭のない不明瞭な感じがアンビエントだと感じている。心で。
そもそも普段からR&Bを聞かない僕からすれば、R&Bとそれ以外の音楽の境界線すら曖昧な訳で、僕が自信を持って「R&Bである!」と言える音楽なんて青山テルマの『そばにいるね feat. Soulja』だけである。思えば僕らの世代が始めて耳にしたR&Bはまず間違いなく着うたの女王・青山テルマのあのアンセムであるはずだ。
青山テルマはいい、Frank Ocean『Blond』の話である。
17曲入り、全1時間という割とボリュームのあるアルバムなのだがこのアルバム、何でか分からないがずっと聞いていられるのである。仕事中、通勤中、料理中、どんなシチュエーションにもぴったりハマる美しいアルバムなのだが、どんなに集中して聞こうと思っても水のようにさらさらと意識の淵から零れ落ちてしまう。聴き終えてみると美しかった印象だけが綺麗に残っているという摩訶不思議なアルバムである。
そりゃあもちろんハッとするような曲だってある。『Be Yourself』からの『Solo』の流れは何度聞いても心奪われるような美しさだし、『Self Control』の後半のメロディなんて荘厳で素晴らしい。こういった記憶にはっきりと残る名曲を抱えながらもアルバム全体の雰囲気は全くもって掴み所がない。
全編通してまさしくアンビエントな雰囲気をたたえたこのアルバム、だが僕はその秘密に気が付いてしまったのである。このアルバムをアンビエントたらしめているのは、極限まで削ぎ落とされたリズム。要は人力のドラムがほとんど入っていないのである。
R&B、すなわちRhythm&Bluesと言っておきながら、17曲の内ドラム、というかリズムマシーンやクラップなどのエレクトリカルビートでさえも、演奏の核となるRhythmの部分がほとんど使用されていない。その事が拍にとらわれないボーカルや、ダークでありつつも心地よいサウンド、作品全体のアンビエントさに起因しているのだ。
その事に気付いてから、この奇妙な浮遊感というか独特の魅力に騙されたように楽しむという聴き方ができるようになり、このアルバムの本当の魅力に気付けたような気がするのである。
Frank Oceanに一言。
2016年傑作アルバムを理解できないという最悪の事態を避ける事ができて大変満足いたしました。