夢のようなライブだった。
落日飛車、生きてる内にライブ観られて良かったってレベルでマジで良かった。今年観た中でダントツ、死ぬ前に走馬灯に絶対出てくるレベル。最高、最高だ。
— フジイコウタ (@repezen0819) 2018年6月7日
アジアンオリエンテッドロックとも、アーバンサイケポップスとも称される、台湾インディーシーンのど真ん中、落日飛車《Sunset Rollercoaster》のライブは言葉を失うほどに美しく、そして圧倒的であった。
落日飛車《Sunset Rollercoaster》というバンド
彼らの音楽は、台北の街そのものだ。
昨今の東京インディーシーンに代表されるシティポップ回帰の流れは台湾においても顕著らしく、Yogee New Wavesやnever young beachらがその音楽の中に「東京」を投影したように、落日飛車《Sunset Rollercoaster》の音楽を聴いていると台湾の街並みが浮かぶようだ。
しっとりと耳にまとわりつくようなボーカルは、湿度と熱がぼんやりと僕らを包むあの街の気候そのものだし、70年代ポップスを彷彿とさせるサウンドがもつノスタルジーは、台湾の街並みや人々がもつ懐かしさに通ずるものがある。
それでいながら圧倒的な演奏力とソングライティング、そして構成力をもってして作られる楽曲群は究極に洗練されていて、これまた台湾の凛とした都市としての佇まいに似たものを感じざるを得ない。
その中でも特に驚いたのはその色彩だ。
あの街は天気が悪い。常にぐずつく直前の赤ちゃんのような天気をしていて、1日の間に何度も降ったり止んだりを繰り返す。その分厚い雲に覆われた濃い灰色が彼らの音楽の中にはしっかりと息づいていて、彼らのまっすぐなシティポップ回帰への姿勢にグッときてしまう。
圧倒的な演奏力
音源を聴いた時点で彼らの実力に疑う余地など無いのだけれども、それでもライブは圧巻だった。特にドラムとベース。
次々と自在に展開して行く楽曲をドライブする感覚。運転のドライブではなく、操るという意味でドライブだ。
極めてメロウで、スローな楽曲の多い彼ら。その中にどっしりと構えるリズム隊のグルーヴがとんでもない。特にベースの上手さは圧倒的で、ゆったりと歩くような動きでベースを弾くのだが、もはやその動きからグルーヴが発せられている。僕も多くライブを観てきた方だとは思うが、あそこまで動きとサウンドが一体になっているベーシストは滅多にいない。『ZAZEN BOYS』の吉田一郎と『Con Brio』のベーシストくらいのものだ。ドラムもスネアの一発で上手さが伝わるドラマーで、普段は抑えている彼のボルテージが上がったプレイには思わず「うはぁ・・・」と声が出る程だ。
そして、そんな彼らの演奏で僕が度肝を抜かれたのは、随所に挿入されるインストパートだ。
特に代表曲である『My Jinji』は途轍もない。
『My Jinji』
前半は湿っぽく歌い上げられるバラード。その歌メロの優しさと言ったらこの上なく、彼のソングライティング力の高さが如実に現れている。ライブでは音源よりもさらに速度を落とし、実にゆったりとしたテンポはまさしく彼らの得意とする部分であり、ゆったりとした中にもどっしりと息づくグルーヴがある。うねるようなベースラインとシンセの煌びやかな音色が彩る前半部分は、間違いなく極上のポップスだ。
だが、この曲をそれだけのものだとは決して思わないことだ。
優しくドリーミーな前半部分は、転調を挟んでマイナー調へと姿を変える。先程までのドリーミーさはどこぞへ消え失せ、台北の街を熱く覆う雲のような不安を孕んだBメロ。次第にファルセットが多用されるようになり、ゆったりと鎌首をもたげるようにテンポが上がって行く。
そしてギターソロ。音源でも印象的な6連譜のキメ。長く続く独奏。次第にサックスとシンセが彼に続いて行く。前述の6連譜は厚みを増し、サウンドは熱を帯びて行く。グイグイとテンションを上げるドラム、ベースは競い合うようにそのうねりを増していき、シンセのサイケな音色が脳を溶かす。
そして気が付いた瞬間、僕らは既に溺れている。
僕らを包むサウンドの破壊的なまでのサイケデリア、目を背ける事ができないほどに熱狂的なグルーヴ。その熱に当てられた観客たちは誰もが皆この異次元のサウンドに踊らされている。想像不可能な程に拡張され、膨張して行くそのインストパートはまるで麻薬のように、問答無用で僕らを渦巻く音の底へと沈めていく。
ただただ底抜けに心地良い音と空気に、自然と笑みが溢れていた。永遠のように感じる夢のような演奏。
嗚呼、これだからライブが好きなんだ。