『OYAT』という略称、まじバカだなぁと思う。
みんな大好き思い出野郎Aチームの2ndアルバム『夜のすべて』がリリースされたので爆速レビューである。
“許し”の音楽
僕が音楽を聞く時に大切にしている指標の一つに「”許し”の含有量」がある。許しを求める現代人、なんてありふれたフレーズはチープなので使いたくないのだが、僕だって許して欲しい事には変わりない。
例えば星野源。彼は許す。多様性やらダメな自分やら人見知りやらを許すのだ。彼が現代における稀代のヒットメイカーたりうる背景にはあの「”許し”リッチ」とも言える音楽性がある。
星野源と思い出野郎Aチームを同列に語りたい訳ではないのだが、思い出野郎Aチームの音楽は許してくれる。ダンスする事、ダンスに間に合う事をこいつらは許すのである。「いいからさ、踊っちゃおうぜ」
まずは何と言ってもリードトラックである『ダンスに間に合う』であるが、この曲に関しては以前別の記事で書いたのでそちらを参照ください。
→現代人への最高の応援歌、思い出野郎Aチーム『ダンスに間に合う』
1曲目から早速許しがすごい。ダンスっちまいなよって。l
「ダンスっちまう」といえばこのセリフ。
カクバリズムから出る1stアルバムの御多分に洩れず、彼らの1st『WEEKEND SOUL BAND』は雑多な印象を受ける。ゲスト呼んだり、インストやったりと節操なく繰り出される様々な楽曲に振り回されるのだ。その観点で言えば、この2ndは実にまとまっている。
サウンドはソウルだったりファンクだったり雑種日本語ロックだったりはするが、全ての楽曲は「ダンス」「この夜」「あの子」「俺らは仲間」という構成要素しか持たない、実に実直な楽曲たちである。
『ダンスに間に合う』の他にも、思わずアホはお前らだと言いたくなるような『アホな友達』。「ダンスビートとあの子が夜の全て」というバカ丸出しのフレーズゴリ推しの『夜のすべて』。「Soul Time」を「早退」とかけている何ともバカっぽい発想の『早退』。「躓くような段差はない」という良いのか微妙なのかはっきりしないフレーズが印象的なファンク・ナンバー『フラットなフロア』などなど、どうにもこいつらフレーズ推しときゃ良いと思ってる節すらある。
そんな中でも『大切な朝』は最高である。
ポップで小気味良いサビが印象的なこの曲だが、何が良いってこの曲でこのアルバムの夜が明ける事だ。
踊りながら朝を迎えて 君と重いドアを開けたら
同じような一日だけど 忘れられない気がする
アホな友達やあの子と過ごした踊りっぱなしの夜が明けたら、何も変わらないようで何かが違う特別な一日がやってくるのだ。
思い出せば学生時代に朝まで飲んだあの日、翌日の気怠くも何か特別な感じが好きだった。お前らとは違って、俺は24時間楽しみ切ったんだぜ?とダサい自慢もしたくなるようなあの感じ。それが「あの子」と踊った夜だったなら尚更である。
そしてアルバムは誰もがその響きだけでブルーに成り得る『月曜日』で締め括られる。
皆少しだけ諦めて電車に乗っている
月曜日をこうも的確に表した歌詞を僕は他に知らない。哀愁を漂わせつつもあくまでファンキーに歌われるこの曲は、浮かれ踊り続けた夜の締めくくりとしても最適だ。
僕はこのアルバムを、バカで実直な応援歌であると受け取った。
こういう”許し”の含有量の高い音楽って結構あると思っていて、星野源『エピソード』は正にそれだ。
全曲通して、人間の日常みたいなものが星野源らしいリアルさと優しさで歌われたこのアルバム。僕が特に好きなのはこの2つの歌詞。
殺してやりたい 人はいるけれど
君だって 同じだろ 嘘つくなよ
『バイト』
雨が降れば 濡れながらでも
歩く 歩く 街を征服
『営業』
この辺りを聴くと胸がスッと空くような気持ちになるのだ。まあいっかって。どうでもよくね?って。
音楽性にもメッセージ性にもバカさ加減にも「らしさ」が出てきた『思い出野郎Aチーム』まだ2ndアルバムをリリースしたに過ぎない遅咲きな彼らを、許して欲しい現代人たる僕らは見逃すべきではないのかもしれない。
→現代人への最高の応援歌、思い出野郎Aチーム『ダンスに間に合う』