日々のこと、9月22日。『2020』と2021年とeastern youth。

いい音楽

どこぞで公言したかは定かではないが、2020年の年間ベストはeastern youth『2020』だった。

2020年8月19日、奇しくも僕の誕生日その当日にリリースされたこのアルバム。当初はサブスクでの配信はなく、フィジカルを買う以外に聴く方法が無かったため迷わずCDを購入。一聴してすぐ、間違いなく2020年という時代に聴かれるべきアルバムだと確信した。

アーティストという、最も大きな煽りを受けたであろう人種の一つである吉野が感じた憤りや嘆き、それでも日々が続いていくことに対する諦観と希望。そういった感情を吐き出す場を奪われた彼が選んだのは、それらの感情を抱え込んだまま、命からがら生き延びることだった。

なんだ かんだ どうした そんな風じゃ まるでダメだお前

そうか それが どうした 知るか 行くぜ 俺は

どんな風だって何がどうでどうなったってよ

歩き出してしまえば もう行くしかねえんだ

朝日に夜を縫い付けて

『今日も続いてゆく』

ゆけども ゆけども帰れない

すれ違う人なく影もなく

歩けど歩けど果てもない

携える地図なく歌もなく

『それぞれの迷路』

散見される変拍子も、敢えてそう作ろうとしたというよりも、その当て所ない憤りややるせなさを表す内に、8拍子の枠から自然と溢れ落ちるようにして作られたような印象を受ける。それくらい、彼の中ではさまざまな感情が渦巻いたのだろう。ここで歌われているのは希望や絶望みたいなシンプルなものではなくて、もっとドロドロと重たくのしかかるような、責任や諦めにも似た決意だ。けたたましく鳴るギターと、ただただ発散を求めるような吉野の歌声は、その現在地を知らせるメッセージだと僕は受け取った。

この吉野の現在地表明は、当時の僕に驚くほど深く刺さった。暗澹、停滞、閉塞。2020年に抱え込んだ種々の感情と向き合いながら生きていくための勇気をもらったようで、自分でも驚くほど励まされた。救われたと言ってもいい。ところがこのアルバム、リリースの形式もあってのことかネットでは恐ろしいほどの無風。僕の周りでもこの名盤の話をしている人はほとんどいなかった。

そしてサブスクが解禁されたのが今年の4月21日。結局のところ状況は去年とさほど変わっていない。が、皆どこかでこの状況と折り合いをつけたのではなかろうか。それが麻痺なのか諦めなのか、はたまた克服なのかはともあれ、異常事態も1年以上続けば日常となる。このアルバムを、2020年8月に聴くのと2021年4月に聴くのとでは、きっと受け取り方は違うだろう。もちろん今なお不安を抱えている人が、このアルバムを聴いて少しでも励まされればと思う。少なくとも僕は、一番良い時期にこのアルバムを聴けたはずだ。

去る2021年9月22日、eastern youthのライブを観た。彼らには似つかわしくないLINE CUBEというコンサートホール。観客同士は座席一つ分ずつ離れて着席の上、歓声もアルコールも無し。想像し得るeastern youthのライブ風景とは正反対の環境だ。

けれども、とにかく、このライブは本当に良かった。

『2020』のオープナー『今日も続いてゆく』から始まり、新譜中心のセトリかと思いきや、続くのは『沸点36℃』『荒野に針路を取れ』『サンセットマン』と往年の名曲たち。その後も新譜から演ったのは『あちらこちらイノチガケ』のみで、オールタイムベストのような盤石なセトリに驚きつつ、そうして『2020』以外の曲を演奏したことは、吉野の新たな決意表明の様に思えた。

ただただ進むことしかできなかった吉野も、自分の意志と足で、一つ一つの言葉と歌を拾い集めるように歩いている。渦巻くような感情の中でもがくことしかできなかった吉野が、どうしようもなく叫ぶように歌う他なかった男が、この時代と折り合いをつけたのだと。そう思うとどうにもグッときてしまった。

この長い低迷は、僕らに色々なことを気付かせた。世界が壊れてしまっても僕らは死なないこと。どんな時でも24時間が経てば明日がやってきてしまうこと。こんな状況でも日々に喜びがあること。

そんな中で、eastern youthの耳を擘く轟音と、振り絞るように放たれる獣のような歌声が、今僕に「進もうぜ」と、「進むしかねぇなら進もうぜ」と語りかけてくる。

俺たちの現実は今日も続いている

人間の毎日は今日も続いてゆく

『今日も続いてゆく』

泣いて涙に陽はまた昇る

歩き疲れて陽はまた沈む

『あちらこちらイノチガケ』

こんな毎日と折り合いをつけろというのも理不尽な話だし、日々が続いていくことがこんなにも厳しいことだとは考えたくもない。それでも今日は続いて、明日が来て、生きていくために仕事をして、飯を食って、歩き続けなければならない。目の前にある現実を倒し続ける。必死こいて生きていく。そんな泥臭い活力を、eastern youthがくれたのだ。

年末にはO-EASTでまたワンマンがあるらしい。皆さんも是非。

2021年も、我々にとってはやっぱり厳しい年でした。しかし、もちろん何ひとつ諦めてはいないのです。そんなのあたりまえ。やれることを、やれるだけ、やる。これしかない。2021年の締めくくりは渋谷O-EASTでぶっ放します。どうぞよろしくお願いいたします。

参考までにセトリ。

今日も続いてゆく
沸点36℃
荒野に針路を取れ
サンセットマン
男子畢生危機一髪
ズッコケ道中
青すぎる空
ソンゲントジユウ
街はふるさと
あちらこちらイノチガケ
踵鳴る
グッドバイ
直に掴み取れ
矯正視力〇.六
裸足で行かざるを得ない
夜明けの歌
街の底
en.テレビ塔
en2.夏の日の午後

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