くるり『その線は水平線』は再来か、進化か

「くるりが戻ってきた」という言葉を聞くと、確かにそう思う。そしてそれと同時に震える。

だって「くるりが戻って」くるまでの数年間、くるりみたいなバンドって一つも現れていない。くるりが座っていたその席に取って代わる事のできるアーティストが1人もいなかったという事実に、僕はくるりというバンドの凄みを感じる。

くるりの新曲『その線は水平線』から見えてきた、今のくるりというバンドを語ろうじゃないか。








くるりの王道

僕が思うくるりの良さは「日本語」と「距離感」にある。

なにせ曲数が多すぎて、どれを紹介するかも迷う訳だが、『ばらの花』や『ハイウェイ』は正にど真ん中だろう。もはや引用すら躊躇われるような名曲ではあるが、そこを敢えて引用しちゃう僕の愚かしさを愛して欲しい。

安心な僕らは旅に出ようぜ

『ばらの花』

僕には旅に出る 理由なんて何一つ無い

『ハイウェイ』

たった2フレーズの引用でも、くるりの歌詞の素晴らしさがわかるというものだ。京都という土地柄がそうさせるのか、豊かな日本語を自由自在に使いこなし、さらにそれをゆったりとしたテンポで、言い聞かせるように岸田が歌い上げる。その温度感、優しさ、柔らかさは間違いなく、くるりのくるりたる所以だ。

そしてもう1つ、その詩世界の豊かさと距離感が素晴らしい。

僕らのいる世界のようでいて、決して手の届かない世界。ありありと想像できるのに、僕らが行くことは叶わない世界。岸田の描く世界観はその距離感が絶妙で、僕らはそこに思いを馳せてしまう訳で。くるりの歌がどうにも心に響くのはそういった理由からだろう。

だがこの新曲『その線は水平線』は少し違う。 

歌詞を聞き込んだところで、散文的でまとまりはなく、そこに世界観の投影はない。耳を引くようなパンチラインも無いし、あのくるり特有の「日本語を使いこなしている」という感じがない。

だがこの曲、一度でも聞こうものならものすごく耳に残るし、リピートの手を止められない。一体この曲の何がそうさせるのだろうか。

 

変化

話はガラッと変わるが、僕の好きなアルバムは1番が『ワルツを踊れ』、次点で『魂のゆくえ』である。

どちらも前述のくるりらしさとは違う毛色のアルバムだ。『魂のゆくえ』はピアノが入ったカントリー・フォーク寄りの冬のアルバムだし、『ワルツを踊れ』はオーケストラを取り入れたクラシック寄りの異国のアルバムといった感じ。何が言いたいかというと、くるりは変化のバンドだ。

アルバムごとにメンバーも違えば、岸田のプロダクションも全く違ったりする。2016年に出たこの『琥珀色の街、上海蟹の朝』などは特に顕著で、完全に岸田ヒップホップハマってただろって感じ。

とにかく、その時々のシーンや岸田の趣味(多分こっちがメイン)に合わせてくるりの音楽は容易にその姿形を変える。そしてその度に毎回めっちゃ良い。どんなジャンルも器用に自分たちのテイストに落とし込み、くるりらしい音楽を作る。それがこれまでのくるり。

ところが『その線は水平線』で見せた今のくるりの音楽は、間違いなく回帰だ。

くるり流日本語ロックとでも呼ぶべき、ゆったりと語りかけるような歌い回し。オーケストラや管楽器を使わず、生身のロックバンドで勝負するようなシンプルな編成は、ここ最近のくるりにはなかったことだし、今の時代にくるりがこれをやるんだと驚かされるようなサウンド。

しかもこの曲、実は2011年の時点で完成はしていて、レコーディングをする度にリリースを見送ってきた曲だという。それが満を辞して今このタイミングでリリースされたのだ。「これが今のくるりやで」と自信を持って送り出した刺客、それがこの曲なのだ。

 

2つのバージョン

今回のシングルには、アレンジの違う2つのバージョンが収録されているのだが、2曲を比べた時、明らかに違うのはドラマーの差だろう。

Ver2が比較的キリキリとしたドラムであるのに対し、Ver1はもったりと、後ろへ後ろへと引っ張るような後ノリのドラム。印象としては、ただでさえBPMの低いこの曲が、さらにゆったりと聞こえるようなアレンジになっている。そしてそれが聞いていてものすごく心地よい。

どちらもシングルに入れてくるあたり、くるり自身もどちらを世に出すのかを決めあぐねた感もあるのだが、僕としてはよりシンプルに音数少なく、あのくるりを見せてくれたVer1を支持したい。シンプルであればあるほど、くるりというバンドの本質が浮き出ているような気がするし、聞けば聞くほど言語化できない中毒性がある。

思うに、歌とバンドのシンクロ率みたいな部分がキーなのだと思う。歪んだギターのバッキングと音数の極めて少ないリードギター、上の方で鳴り続けるシンセ、イヤホン全体から響くベースの豊かな低音、そして屋敷豪太のゆったりと骨太なドラム。そしてそれらと岸田のボーカルとが、カッチリ合っている。溢れ落ちる水のように、歌詞が耳に残らないのもそれが理由だろう。サウンドを浮き立たせる為に、あえて歌詞にフックを作らないようにしている節もある。そして一度サウンドに耳を傾ければ、シンプルな編成でシンプルな演奏なのに、そこには何も足すことができない。バンドサウンドとして完成された極上のサウンドなのだ。

 

おわりに

このシングルには特典で折り紙が入っているらしい。

くるりがリリースした「折り紙つき」のこの新曲、くるりがの次回作アルバムに期待をしてしまうのは僕だけではないだろう。

 

関連記事・スポンサードリンク